有事に被災地へ駆けつける「レスキューホテル」。自治体の関心高まる
建築用コンテナモジュールを利用し、平時は客室、有事には避難施設として速やかに被災地へ出動する「レスキューホテル」への関心が高まっている。同ホテルを展開するのは、建築・不動産、エネルギー事業などを手がけるデベロップ(千葉県市川市)。原則としてあらかじめ自治体と協定を結び、協定自治体からの要請に基づき出動する。自治体から注目を集めている、レスキューホテルの開発経緯や今後の展開を探った。(取材・宮里秀司)
コンテナホテルは2021年6月現在、35拠点、1170室を配備(開業準備中を含む)している。57の自治体などがレスキューホテル出動要請のための協定を結んでいる。2021年内には北海道を除く46都府県への出動が可能となるよう計画を進めている。
コンテナホテルのパターンはトレーラーハウス型、建築型の2種類がある。このうち建築型は四隅に独立基礎を立ち上げ、杭を使ってコンテナを基礎に固定。立地は工業団地など産業集積エリアの周辺、インターチェンジ側や国道沿いがーゲットだ。
東日本大震災で着想を得る
レスキューホテル誕生のきっかけは、2011年の東日本大震災だった。岡村健史社長は震災後間もなく現地に赴き、さまざまな困難に直面する被災者の生活を目の当たりにするなかで、コンテナを利用した宿泊施設の必要性を痛感。被災地福島県出身の菅原淳副社長は「被災者のために、安全安心でプライベートな空間を確保できるホテルが作れないかと思った」と明かす。
こうして民間主導のレスキューホテルという発想が生まれた。ただ「当初は先例がないということで、自治体から理解を得ることは難しかった」(菅原副社長)ため、苦労もあったという。
レスキューホテルは宮城県石巻市で復興従事者用宿泊施設として利用されたコンテナを、栃木県佐野市に移設したのが始まりで、2017年10月に「HOTEL R9 SANOFUJIOKA」としてリニューアルオープンした。その後、移住性を高めるために1棟1客室型に改良し、2018年12月に「HOTEL R9 The Yard シリーズ」(レスキューホテル)1号店を栃木県真岡市で開業したのを皮切りに、全国展開に乗り出している。
新型コロナ対策として出動も
2020年4月には長崎市に停泊していたクルーズ船「コスタ・アトランチカ号」で、新型コロナウイルス感染症のクラスター感染状況把握と、感染拡大防止対策のため、医療従事者や厚生労働省災害派遣医療チーム(DMAT)の休憩施設として使われた。長崎では発注から3日間で50台(室)のレスキューホテルを現地に届けた。
その後東京都三鷹市、千代田区にPCR検査体制強化のために出動し、医療従事者の負担軽減のためにも活用されている。コロナ対応としてのレスキューホテル出動実績は、これまで4回に上る。
ふだん身のまわりにあるモノやサービスを、非常時に役立てる考え方を「フェーズフリー」といい、レスキューホテルはフェーズフリーに基づくサービスの社会実装という意義を持っている。