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科学技術に深く切り込んだ立花隆さん、日本の研究力に鳴らした警鐘

科学技術に深く切り込んだ立花隆さん、日本の研究力に鳴らした警鐘

立花隆さんは科学技術のあらゆるテーマに鋭く深く切り込み、多くの書籍を著した

評論家でジャーナリストの立花隆氏が亡くなった。政治評論では、故田中角栄首相の金権政治をあばいて「ペンは剣よりも強し」を体現した。個人的に大きな影響を受けたのが、自ら徹底的に調べ尽くした上で、膨大な取材を積み重ねる妥協のない科学ジャーナリズムの姿勢だ。

宇宙から素粒子、ロボット、環境、脳科学、サル学、生命科学、臨死体験に至るまで、“知の巨人”はその圧倒的な知識量と尽きることのない知的欲求によって、科学技術のあらゆるテーマに鋭く深く切り込んだ。この飽くなき探究心の根底には、「人間とは何か」という壮大な問いがあった。学問の大海原を縦横無尽に取材しているかように見えるが、それはたった一つの答えを導き出す作業だったのではないかと思う。

最先端の知識を常にアップデートしながら、「自分の天職は、難しいことをやさしく書くことにある」と語っていた。そのために驚異的な読書量をこなし、それでも「恥を忍んで、無知をさらけだしながら質問し、書くときにはかつての無知な自分にも分かるようにやさしく語ることに努めた」という。

科学技術について分かりやすく伝えるだけでなく、日本の研究力の低下についても早くから警鐘を鳴らした。「日本は人口当りにすると世界一の研究者を持ち、(中略)人口当りの研究費、対国内総生産(GDP)比では世界一である。(中略)しかし、研究水準ということになると、欧米、特にアメリカには相当水をあけられているという現状がある。研究者の頭数も研究費もいいところまできているのに、なぜ研究水準が低いかというと、一人一人の研究水準が低いからである」(00年『21世紀 知の挑戦』より)

加えて、日本の国民全体の科学技術に対する理解度が低いこともたびたび指摘した。資源のない日本は科学技術で付加価値をつけることでこれまで食べてきたし、これからもそれで食べていかざるをえない。このままいくと本当に危うい、と20年以上前に忠告している。翻って今日の日本の状況が少しでも改善したか、と問われれば、到底イエスとは言えないだろう。我々メディアの責任も重い。

立花氏の本は、今読んでも示唆に富み、我々に多くの気づきを与えてくれる。

ニュースイッチオリジナル
日刊工業新聞記者
日刊工業新聞記者
立花氏の優れた著作に導かれた人はどれほど多いだろう。私もそんな一人で、学生時代に著書をほぼ読破し、科学を伝える仕事に憧れを抱きこの道に進んだ。確か、日刊工業新聞は“日本版のウォール・ストリート・ジャーナル”と氏が称していたように記憶している。直接会える立場になっても、その偉大さゆえに自分が取材することははばかられ、東大の講義に一般参加したり、「猫ビル」をこっそり見に行ったりした。科学ジャーナリズムの一時代が終わったという大きな喪失感、寂しさが消えない。

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