電力不足が表面化する中国、日系企業はどうする?
経済が急回復する中国で、電力不足が表面化している。広東省広州市、東莞市、深圳市などの南部では、電力の供給調整を理由に操業停止を要求されるケースもある。現地に進出する日系企業では、振り替え操業や自家発電設備の活用などで操業を継続している。
ソニーグループの広東省の生産拠点では計画停電の通達に対し自家発電機による電力供給で対応している。キヤノンはレーザープリンターなどを生産する広東省中山市の工場と、デジタルカメラなどを生産する同省珠海市の工場で5月下旬から週1回程度、休日に振り替え操業している。
ブラザー工業ではプリンター・複合機などを製造する深圳の工場に5月21日に節電要請があり、エアコンの温度調節などの節電に協力している。ラベルプリンターなどを製造する広東省珠海市の工場にも電力調整依頼があった。特定曜日の11―12時と16―17時電力需要ピーク時が対象で5月22日、24日と6月1日に実施した。自家発電も活用し、操業への影響はなかった。
曙ブレーキ工業の広州市の拠点では中国政府に送電を停止しても支障がない日時を事前申請し、急な操業停止を求められる事態を避けられているという。
アマダは広州市にあるプレス周辺装置製造工場が操業調整の対象となっている。送電停止の時間帯を避けて操業し、工員は振り替え休日で対応している。
住友化学が広東省珠海市に持つ自動車など向けの樹脂材料生産拠点では、操業調整の要請はあったものの直前で撤回されたという。東レは広東省に立地するグループ会社の工場で操業調整があり、休日に振り替え操業することで対応している。
JX金属では東莞市にあるグループ会社のコイルセンターで、5月半ばから6月初旬にかけて停電要請を受けた。休日の振り替えのほか、今後に備えてレンタル発電機の取り付けを行った。
アイカ工業は広東省のフェノール樹脂工場が、電力不足で生産停止の可能性が浮上した。そこで中国政府と交渉し、操業に影響がない程度の電力供給を受けている。台湾子会社の機能材料工場では自家発電機を購入した。
電力の需給環境に改善の兆しもあるが、「気象状況に応じて突発的に制限がかかることがある」(クボタ)。また、阪和興業は現地の状況について「業種や企業規模によって当局からの要請内容も異なっているもようだ」と推察する。
スピーカーの設計・製造などを手がける東京コーン紙製作所(埼玉県春日部市)は、中国江蘇省に工場を持つ。操業調整の要請は受けていないが、押田政人社長は「これから連日暑い日が続くと操業調整を受ける可能性はあるだろう」と話す。
私はこう見る
供給制限、緩和の兆し 日本貿易振興機構(ジェトロ)広州事務所所長・清水顕司氏
電力不足の原因は主に次の3点だ。経済回復により工業生産が盛んになり、消費電力が増加。南部では5月から気温が30度を超える日が多く電力需要も増えた。一方、雨が減ったことで水力発電量が減少した。
広東省広州市では約1000社、東莞市では600社弱の日系企業が進出する。市や区の行政が5月10日ごろから企業に対し「あすから休業してほしい」といった計画性のない要請を多く出していた。生産計画が崩れる、従業員のシフトが混乱する、サプライチェーン(供給網)が安定しないなどの影響がある。広州市の経済技術開発区では今も週に1、2回の休業要請が来ていると聞く。
6月から降水量が増え、徐々に電力量が戻ってきた。だが、今も一定数の企業が電力不足の影響を受けている。
国家発展改革委員会は17日の記者会見で「状況は良くなっている」とコメントした。今後、供給制限を徐々に緩和するという。(談)