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タカタのリコール問題でダイセルの業績はどこまで上がるか

文=清水秀和(証券アナリスト)「米国以外の工場も増産対応を検討することになる」
タカタのリコール問題でダイセルの業績はどこまで上がるか

インフレーター

 ダイセルはタカタ製エアバッグのリコール(回収・無償修理)に伴う交換部品の不足に対応し、エアバッグの増産に追われている。もともと同社は約2割の世界シェア(タカタが首位で3割)を持つが、2014年3月期の世界販売台数は6000万個程度で、17年3月期には1800万個増やし7800万個にする計画を掲げてきた。

 実際、ダイセルは15年末までに播磨工場(兵庫県たつの市)で数十億円を投じて設備増強することを決めたばかり。しかし、タカタ製インフレーターのリコール対象が拡大しており、特にホンダなど国内の自動車メーカーはタカタ製インフレーターを新型車に搭載しない方針を示したため、生産に支障をきたす。このため、自動車各社から増産要請を受け、代替品の生産を求められている。

 また、米国ではリコールの広がりで需要が急速に高まっていることを受けて設備増強を急ぐ。ケンタッキー州に次いで2カ所目のアリゾナ州にエアバッグの主要部品である「ガス発生装置(インフレーター)」の新工場を建設する。16年春の稼働予定で、投資額は100億円規模とみられる。

 このほか、同社の海外工場は米国以外に、タイ、中国、韓国とポーランドにあり、いずれ増産への対応を検討することになろう。エアバッグ増産に追われる一方で、(1)世界シェアの80%を握る液晶ディスプレー(LCD)用TACフィルム原料も需要が好調(2)世界シェア約1割(国内は独占)を握る植物性樹脂の酢酸セルロースは煙草のフィルター原料になるが、煙草需要は落ち込みと予想され、中国など新興国を中心に依然として高い伸びを示している。

 さらにフィルターが年々長くなる傾向にあるため使用量は増えている(3)医薬品の副作用や効果の分析に使う試薬原料「光学異性体(キラル)」と呼ばれる化学物質を分離・抽出する機器では約7割の世界シェアを持ち、今機器以外に、試薬を欧米やインド向けに順次発売していく計画をもつ。

 足元の業績は最高益を更新する見通し。酢酸やその誘導体、自動車・電子デバイス向けエンプラも数量増と、円安、採算改善の効果で増収、大幅増益が見込まれているためだ。

 <プロフィル>
 清水秀和=証券アナリスト兼IMSアセットマネジメント社長
 年間約150社を取材し、延べ5000社の取材実績を持つ。成長する技術系製造業の企業発掘を専門としており、身近で分かりやすい解説に定評がある。株式公開予定企業育成の実務経験を生かし、東北大学や日本大学などでベンチャー起業論の講演も多数。
 ※「アナリスト千里眼・成長企業発掘編」を毎週木曜日に日刊工業新聞で連載中
日刊工業新聞2015年11月26日 金融面
明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役デジタルメディア事業担当
株価の年初来最安値は1月7日の1317円、昨日の終値は1805円で今年に入ってじわじわ右肩上がり。16年3月期の業績見通しは売上高4590億円(前期実績比3・4%増)、営業利益は610億円(同19%増)。米新工場の稼働が業績が効いてくる来期も過去最高益を更新する可能性が高い。

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