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【音声解説】投資家も注目する「大学債」、東大・東工大に続く参入はどこか?

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8回目は「投資家も注目する『大学債』」について科学技術部の山本記者が解説します。紹介した記事と合わせて音声配信をお楽しみください。
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大学債という大学の新たな資金調達法が、急速に存在感を高めている。東京大学は2020年10月に200億円分を発行し、学術・基礎研究の推進に活用する。東京工業大学は田町キャンパス(東京都港区)に建設する高層ビルの土地の貸付料収入を償還原資に、23―24年に100億円規模で発行する計画で、他の指定国立大学も関心を示す。私立の学校法人の私募債と異なる新たな金融商品である点も注目されている。(編集委員・山本佳世子)

大学債は世界最高水準の研究・教育を担う指定国立大学を中心に国立大の規制緩和など議論する文部科学省の会議で、東大が20年2月に開いた初回会議で提案した。「規制緩和に問題なし」として、同年6月に閣議決定した政令改正において全国立大で発行が可能となった。

従来は償還のための事業収入が確実な付属病院や寮などの事業に限って可能だった。それが寄付金や土地活用収入など業務上の余裕金で償還するのなら、幅広くコーポレートファイナンスの形態で債券が発行できる。

トップバッターの東大は年限40年の200億円で起債した。ESG(環境・社会・企業統治)投資が注目される中で、教育機関が対象となるのは初めてだった。当時、担当理事だった藤井輝夫総長は「大学が公共を支える活動のための資金を社会との対話を通じて金融市場から調達するのが狙いだった。内部留保などで眠っている企業の資金を社会的な課題解決に取り組む大学のアクションによって動かしたいと考えた」と振り返る。

投資表明した企業数は約50社。購入希望額は発行額の6倍超で「通常なら多くて4倍程度なのに」と証券会社の担当者を驚かせた。ある生命保険会社は200億円の購入希望額を掲げたが、実際の購入額は10分の1だった。同大が多くの投資家に参加してもらいたかったためだ。

外国大学の大学債も扱う外資系証券会社を除けば、業界関係者も大学債の経験はない。債券を購入する企業は投資可能と判断する自社の格付け基準などを見比べながら、投資先の大学を判断することになる。

同大財務部の担当者は、起債直前の9月に投資家向け広報(IR)資料を抱えて個別対応を中心に、大学債について約50回の説明を行った。これまで接触がなかったものの、同大卒業生が多い企業の責任者に対して「なぜ大学債が必要なのか」を説いて回った。

投資家、社会貢献に賛同

ただ、これまでなかっただけに「機関投資家の間でも判断は割れた」(同大財務部)。償還の原資は寄付金の運用利益や未利用地の有効活用などを活用する。同大は他大学と比べて大学発ベンチャー関連のライセンス収入なども強みとなる。それでも「利益を生む事業体ではない」との不安な声も上がった。

結局、投資リターンを重視する株主重視の企業は離れ、社会的な課題解決に取り組む社会貢献債(ソーシャルボンド)として同大の姿勢に賛同する投資家が購入に動いた。連携する吉本興業やダイキン工業、日本女子大学などが購入した。「満期まで手放さないと表明してくれる投資家が多かった」(同大財務部)と一定の手応えを感じている。

同大が手にした200億円の使い道の一つが、次世代のニュートリノ観測装置「ハイパーカミオカンデ」の整備だ。藤井総長は「この分野は国際競争が激しい。東大も先行投資で自助努力をすることで、国の理解を高めたい」と話す。

学術・基礎研究の大型プロジェクトは基本的に政府が予算を手当てする。しかし候補案件が順番待ちの状況では、せっかく日本が、東大がリードしてきた分野も危うくなる。国にしっかりと研究支援してもらうためには、同大もやれることをやる必要がある。経営改革だけではない研究大学としてのバランス感覚がうかがえる。

阪大など、格付けAA+

東大の大学債に他の指定国立大などは高い関心を示している。大阪大学と東工大は3月に格付投資情報センターから信用格付けの「ダブルAプラス」をそれぞれ取得した。阪大はこれを機に「大学債の発行を含む多様な資金調達手段の確保」を検討している。

現在、大学債で集めた資金の使途は土地や施設・設備などハードの固定資産に限定されている。しかし若手研究者支援など「ソフトでも活用したい」とのニーズは根強い。最近ではデジタル変革(DX)やバーチャルな知的価値が大学など研究機関で重要度を増している。こうした研究の支援に応えるため、大学債を発行するなら償還期間を延ばしたいと考える大学もある。

東大は近年、他大学から独り勝ちをやゆされる場面があった。ただ、大学債を同大限定にしてはいけないと考える。複数の国立大、私立大の学校法人も公募債を手がけるようになれば、新たな金融市場ができるとともに、社会変革につながるからだ。

東大は第2弾の大学債の発行を検討するかたわら、他の国立大の問い合わせにも積極的に応じている。

東工大、土地収入は年45億円

東工大が独自財源を得るプランとして温めていたのは、国立大の土地の規制緩和を活用した田町キャンパスの土地を利用したビル建設だった。益一哉学長は「土地の貸し付けで年間45億円の収入が入る。税金や本学持ち分のメンテナンス料を引いた真水で約30億円。これが2026年から75年間続くことになる」と期待する。

同大は当初、土地の貸付料収入を10億円と試算していた。それがJR山手線・田町駅近くで大規模再開発と重なり、収入額が年45億円に跳ね上がった。「神の与えたもうもの」(益学長)の資産価値は想像以上だった。

佐藤勲理事・副学長は「2000億円の大学基金を構築し、年率2%で運用して得られる分(年40億円)と同等のインパクトがある」と説明する。寄付基金による資金運用は多くの大学が取り組んでいるが2000億円の基金が生まれたと考えると、破格の規模であることが分かる。

東工大などが同大の田町キャンパスに建設する複合施設(完成予想図=NTT都市開発・鹿島・JR東日本・東急不動産グループ提供)

これを受け、同大は大学債を視野に入れるようになった。大学にとって大学債は借金であり、起債は容易ではない。

だが、同大は再開発の収入が償還原資になるため、一度に100億円規模の大学債を起債できるとみる。同大では大学債で得た資金を活用し、世界と戦う研究力をつけるためのキャンパス整備を一気に進めようと考えている。

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