調達・購買部門はモノを買うこと以上の意味を持ち始めている
文= 坂口孝則(調達・購買コンサルタント)「お金というメディアを使ってメッセージを伝えよう」
**「お金と稼ぐ社員」と「お金を使う社員」
鳴り止まない電話、次々に降りかかるトラブル、無数に届くメール、社内からの罵声、サプライヤからの苦情、机に溜まってゆく見積り書、怒鳴り声、10分で済ます昼食、生産遅延に関する責任のなすりつけ、休日に突然の呼び出し、営業マンとの言い争い、アシスタント女性からの不平不満・・・何もかもが混同していました。
すると聞こえるのは、オフィス全体の冷房が切れた音。私はその静寂に急かされるように書類を整理しました。パソコンの電源を落としながらふと目をやると、時計の針はいつの間にか翌日に日付を変えていました。
昔は何をやっていましたか――? そう訊かれると、いつも、こう答えます。
「モノを買い続けていました」。
社員には2種類の人がいます。「お金を稼ぐ社員」と「お金を使う社員」です。ただし、これは「稼ぐ社員」と「稼げない社員」という意味ではありません。ひとつの企業体のなかで、「お金をお客様からもらってくる」役割の社員と、「お金をお取引先にお支払いする」役割の社員がいるということです。
前者は、営業部門に代表され、後者は調達・購買部門に代表されます。では、調達・購買とは何か? それは、外部からモノを買い付け、その対価を支払うことです。例えば製造業の調達・購買部門であれば、自社製品に組み込まれる部品類の価格を交渉し、納期を必死になって追いかける仕事がそれにあたります。
これまで1万円だったところを9000円にすることで企業の利益向上に寄与する。納期を守ることで、生産遅延を防止する。それらの役割を、調達担当者は企業から期待されています。
すぐれたメーカーでも経常利益率は5%ほどです。もし、売価1 0 0 0 円の製品があるとすれば、材料費・購入部品費・外注加工費などの外部支出費が700円、その他経費が250 円で、やっと50 円が利益として残ります。調達・購買部門が外部購入費を50 円下げることができれば、直接のコスト発生なしに、利益率を倍にできるわけです。
売上高が伸びない時代にあって、やむなく調達・購買部門に注目されたのが実際のところです。とはいえ、これまで調達・購買部門を強化してこなかった多くの企業にとって、「売上高を伸ばす」のではなく、「外部支出を減らす」ことによって利益を倍増させるという発想は、まさに「コロンブスの卵」と受け止められています。
かつてはサプライヤを脅して価格をムリヤリ下げたり、あるいは、さも安くなったかのように見積書をあらかじめ高めに出してもらったりと、調達・購買にはある種のグレーさあったことは否定しません。
よくあるジョークに「きみが配属されるところは、コンドームだ」というものがあります。「無いに越したことはない。ただ、あるなら存在感は薄いほうが良い」と。それが調達・購買部門だというのです。物品の注文のためには調達・購買部門がなければいけない。ただし、余計なことは考えず、注文書を書き続けて、ただただ価格交渉をしてくれたらいい。そんな侮蔑が感じられました。しかし、そこから十数年たった今、調達・購買部員にはコンドーム以上の、プロフェッショナルとしての能力が求められています。
調達・購買に関わるひとが単なる交渉屋ではなく、プロフェッショナルであることを求められている証左として次のような三つの調達・購買トレンドが出てきました。
①プライスからコストへの変化
②戦略的癒着関係への脱皮
③手間暇調達から能力調達への移行
①プライスからコストへの変化:これまでの調達・購買の役割は、とにかく交渉で価格さえ下げればよく、その際に最も必要とされていたのは交渉力でした。しかし、現在必要とされているのは、コストを正確に見るための深い製品知識と工程知識であり、加えて、サプライヤがいかなるメカニズムで見積書を作成するかまでをも把握した原価計算スキルも求められます。単なる買い叩きでは、サプライヤも価格を下げ続けることはできません。工程変更や仕様変更によるコストダウンをサプライヤとともに推進する必要があります。
②戦略的癒着関係への脱皮:多数の企業と取引を継続するのではなく、将来的な戦略を共有できる本命企業とのみ、集中した取引を実施することが重要視されています。サプライヤと戦略的癒着関係を構築するには、相手先の財務能力、開発・設備能力、将来の企業価値を正確に判断する能力が必要になります。
③手間暇調達から能力調達への移行:サプライヤを単なる外注先とみなすのではなく、すぐれた部品設計力を提供してくれる対等なパートナーとみなさなければなりません。それはその「一緒に共生するパートナー」を見つける目を持つことでもあります。
これからは、調達・購買部門みずから積極的に動き、同業他社の動向に目をやり、世界的な風潮に敏感となり、新たな技術のトレンドを知り、自社が必要としている外部の叡智を吹き込まねばなりません。
鳴り止まない電話、次々に降りかかるトラブル、無数に届くメール、社内からの罵声、サプライヤからの苦情、机に溜まってゆく見積り書、怒鳴り声、10分で済ます昼食、生産遅延に関する責任のなすりつけ、休日に突然の呼び出し、営業マンとの言い争い、アシスタント女性からの不平不満・・・何もかもが混同していました。
すると聞こえるのは、オフィス全体の冷房が切れた音。私はその静寂に急かされるように書類を整理しました。パソコンの電源を落としながらふと目をやると、時計の針はいつの間にか翌日に日付を変えていました。
昔は何をやっていましたか――? そう訊かれると、いつも、こう答えます。
「モノを買い続けていました」。
社員には2種類の人がいます。「お金を稼ぐ社員」と「お金を使う社員」です。ただし、これは「稼ぐ社員」と「稼げない社員」という意味ではありません。ひとつの企業体のなかで、「お金をお客様からもらってくる」役割の社員と、「お金をお取引先にお支払いする」役割の社員がいるということです。
前者は、営業部門に代表され、後者は調達・購買部門に代表されます。では、調達・購買とは何か? それは、外部からモノを買い付け、その対価を支払うことです。例えば製造業の調達・購買部門であれば、自社製品に組み込まれる部品類の価格を交渉し、納期を必死になって追いかける仕事がそれにあたります。
これまで1万円だったところを9000円にすることで企業の利益向上に寄与する。納期を守ることで、生産遅延を防止する。それらの役割を、調達担当者は企業から期待されています。
すぐれたメーカーでも経常利益率は5%ほどです。もし、売価1 0 0 0 円の製品があるとすれば、材料費・購入部品費・外注加工費などの外部支出費が700円、その他経費が250 円で、やっと50 円が利益として残ります。調達・購買部門が外部購入費を50 円下げることができれば、直接のコスト発生なしに、利益率を倍にできるわけです。
売上高が伸びない時代にあって、やむなく調達・購買部門に注目されたのが実際のところです。とはいえ、これまで調達・購買部門を強化してこなかった多くの企業にとって、「売上高を伸ばす」のではなく、「外部支出を減らす」ことによって利益を倍増させるという発想は、まさに「コロンブスの卵」と受け止められています。
かつては「コンドーム」のような存在
かつてはサプライヤを脅して価格をムリヤリ下げたり、あるいは、さも安くなったかのように見積書をあらかじめ高めに出してもらったりと、調達・購買にはある種のグレーさあったことは否定しません。
よくあるジョークに「きみが配属されるところは、コンドームだ」というものがあります。「無いに越したことはない。ただ、あるなら存在感は薄いほうが良い」と。それが調達・購買部門だというのです。物品の注文のためには調達・購買部門がなければいけない。ただし、余計なことは考えず、注文書を書き続けて、ただただ価格交渉をしてくれたらいい。そんな侮蔑が感じられました。しかし、そこから十数年たった今、調達・購買部員にはコンドーム以上の、プロフェッショナルとしての能力が求められています。
資材調達をとりまく三つのトレンド
調達・購買に関わるひとが単なる交渉屋ではなく、プロフェッショナルであることを求められている証左として次のような三つの調達・購買トレンドが出てきました。
①プライスからコストへの変化
②戦略的癒着関係への脱皮
③手間暇調達から能力調達への移行
①プライスからコストへの変化:これまでの調達・購買の役割は、とにかく交渉で価格さえ下げればよく、その際に最も必要とされていたのは交渉力でした。しかし、現在必要とされているのは、コストを正確に見るための深い製品知識と工程知識であり、加えて、サプライヤがいかなるメカニズムで見積書を作成するかまでをも把握した原価計算スキルも求められます。単なる買い叩きでは、サプライヤも価格を下げ続けることはできません。工程変更や仕様変更によるコストダウンをサプライヤとともに推進する必要があります。
②戦略的癒着関係への脱皮:多数の企業と取引を継続するのではなく、将来的な戦略を共有できる本命企業とのみ、集中した取引を実施することが重要視されています。サプライヤと戦略的癒着関係を構築するには、相手先の財務能力、開発・設備能力、将来の企業価値を正確に判断する能力が必要になります。
③手間暇調達から能力調達への移行:サプライヤを単なる外注先とみなすのではなく、すぐれた部品設計力を提供してくれる対等なパートナーとみなさなければなりません。それはその「一緒に共生するパートナー」を見つける目を持つことでもあります。
これからは、調達・購買部門みずから積極的に動き、同業他社の動向に目をやり、世界的な風潮に敏感となり、新たな技術のトレンドを知り、自社が必要としている外部の叡智を吹き込まねばなりません。
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