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【決算・一覧掲載】業績改善の地銀、企業倒産の増加懸念で楽観できず

地方銀行の業績が改善する見通しだ。2022年3月期連結業績は、主要地銀・グループ20社のうち、16社が当期増益を予想する。21年3月期の当期増益は10社で、コロナ禍を受けた多額の与信費用計上が響いた。22年3月期も与信費用は高止まりだが、減らす地銀が多い。ワクチン接種進展による経済状況改善を見込める。一方で、企業倒産の増加が懸念されており、楽観はできない状況だ。

「与信コストのぶれによっては厳しい決算になる可能性がある」―。全国地方銀行協会の大矢恭好会長(コンコルディア・フィナンシャルグループ〈FG〉社長)は19日の会見で、22年3月期の展望を示した。

各行は21年3月期、貸し倒れに備えた与信費用を計上したが、東京商工リサーチ(TSR)の同期の倒産集計が30年ぶりに8000件を割るなど倒産は記録的低水準にとどまった。コロナ対策である金融機関の実質無利子・無担保融資が奏功した。

22年3月期はワクチン接種進展で新型コロナが収束に向かえば、地域経済が改善し、各行に追い風となる。店舗統合などの経費削減の効果も見込める。与信費用の減少もあり、業績改善が見込める。

ただ、今後の倒産増加が業績に影響を与える恐れがある。実質無利子・無担保融資などの返済が始まるが、コロナ禍の長期化で返済余力が落ちており、TSRは夏以降の倒産増加を見通す。与信費用を積み増すことになれば、業績に響く。

各行はコンサルティングやマッチング、事業承継など融資以外の支援に力を入れ始めている。本業支援を新たな収益源に育て、体質強化を狙う。本業支援には倒産抑制につながる効果も期待される。地銀の役割は従来以上に高まる。

上場地銀・グループ77社の21年3月期決算は36社が当期減益か当期損失で、地銀業界全体で見れば業績は厳しい。

東日本 コスト削減が奏功

東日本地域では主要9行中7行が当期増益を見込む。コンコルディアFGの大矢恭好社長は「ワクチン接種が進めば滞留した預金を消費に回す動きも出てくる。悲観一色では見ていない」とする。

コスト削減効果も出る。東京きらぼしFGは22年3月期中にデジタルバンク「UI銀行」を開業する一方、個人客向け店舗比率を高めながら全店舗数を134から116に削減。人事制度も改め、「効率化効果は年10億円以上。21年度を合併効果が出てくる年と位置付けている」(常久秀紀取締役)。

七十七銀行は「先行きの見通しは厳しい」(小林英文頭取)とし、与信費用も保守的に捉えて21年3月期と同程度にする。

千葉銀行の佐久間英利頭取は「(21年3月期は)堅調な成績を収められた」とした上で、「新型コロナの収束時期は見えないが、資金繰り支援などで企業を支えていく」とする。

関西・中四国 個社・業種別に対応

22年3月期業績予想について、ひろぎんホールディングス(HD)の尾木朗取締役専務執行役員は「年度後半にワクチン接種などで経済が持ち直す」との見方。中国銀行の加藤貞則頭取は「コロナの影響を受けた顧客に、コンサルティングや事業承継など資金繰り以外の対応が増える」との考えを示した。

京都銀行の土井伸宏頭取も「個社別、業種別で課題や求められる支援は異なるが、地銀らしく一社一社きめ細かく対応していきたい」との方針だ。

池田泉州HDの鵜川淳社長は「20年度に計上した予防的引き当て45億円のほか21年度も与信コストを40億円見積もった」と説明。その上で、22年3月期連結業績の当期利益は前期比9・7%増の56億円を見込む。関西みらいFGの菅哲哉社長は「(20年度に)営業部門の収益は(増益傾向に)反転した。経費削減や法人ソリューションや個人コンサルティングなどが営業収益に結びつく」と見ている。

中部 本業支援を重視

中部の主要地銀はコロナ禍が長期化する中、企業の存続に向けた支援を強化する。

静岡銀行の柴田久頭取は「県内経済は力強さに欠け、廃業が増えている。今後は承継・廃業などのニーズに応える」と述べた。

十六銀行は「与信関係費用は保守的に見ている」(児玉英司執行役員)とした一方で、資金繰り支援について「一巡したと考えている。今後はビジネスマッチングなど資金繰り以外も取り組む」と本業支援に力を入れる考え。

ほくほくFGは、「コロナ禍の金融機関への影響は21―22年度に本格化すると思う」(庵栄伸頭取)とし、積極的に融資を受けてきた顧客が、今後は借り入れに慎重になるとの見通しを示した。

九州 手数料増で巻き返し

ふくおかFGは、当期減益だった21年3月期から、22年3月期は当期増益を見込む。柴戸隆成会長兼社長は傘下行統合など「コスト先行だったが峠を越し、効果が徐々に出ている」。好調な投信販売を広げて手数料収入も伸ばす。

西日本フィナンシャルホールディングスは、21年3月期は与信費用の引き当て強化に伴い当期減益に。「地固めを優先した。手堅い決算」(谷川浩道社長)。デジタル化による経費圧縮が順調で、22年3月期はコロナ禍前を上回る利益水準で着地を狙う。収益面では、コロナ禍で落ち込んだ法人手数料収入をオンライン営業の進展により巻き返す。

日刊工業新聞2021年5月20日

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