介護用の見守りセンサーが転換期。補助金頼みの市場構造から脱却できるか
ベッド下から健康見守る
介護用の睡眠見守りセンサーが普及期を迎えようとしている。パラマウントベッドなど2社の寡占市場とされてきたが、新規参入でユーザーの選択肢が増加。実勢価格も下がり始め、ここにコロナ禍を受けて公的な補助金が流入した格好だ。足元では補助金を使わないセンサーの自費購入も増えつつあり、補助金頼みの市場構造からの脱却が急がれる。介護用センサーはビジネスとして自立できるか。(小寺貴之)
巨大な未開拓市場!! 介護ロボ普及の柱
「普及率は数%。まだまだ、これからの市場だ」とバイオシルバー(横浜市港北区)の原田敬三社長は現状を説明する。介護用見守りセンサーはベッドマットの下に敷いて、寝ている人の呼吸や心拍、体動などを測る。夜中に起きてしまう頻度や、呼吸数の変化を週・月単位で記録し、体調悪化の予兆を捉えることも可能だ。同社とパラマウントベッドが2強とされる。
原田社長は「うちが年間約1万台。全体で3万―4万台の市場だ」と計算する。一方のパラマウントも2021年3月期に前期比2・1倍の3万6000台を販売し堅調に推移。22年3月期は3万9000台を計画する。
1月審査分の施設介護サービスの受給者は96万8900人、在宅介護向けの介護ベッド貸与保険給付の台数は100万8000台。介護施設と在宅介護、合わせて200万台弱の介護ベッド市場が存在する。このうち介護用センサーは年間2%程度の供給にとどまり、巨大な未開拓市場が残っている。
介護用センサーは国の介護ロボ普及事業の柱だ。厚生労働省の「地域医療介護総合確保基金を活用した介護ロボットの導入支援」事業では、導入台数の8―9割を介護用センサーが占める。移動や入浴の支援機器よりも単価が安く、導入効果もわかりやすいためだ。コロナ禍の前から、夜勤の巡回負荷を軽減するために導入されてきた。センサーの設置で睡眠中の入居者に問題がないか、2時間おきに扉を開けて確認しなくても済むようになったという。同事業では19年度に約7億500万円を助成した。
補助金拡充、恩恵大きく
20年度は補助金の上限が拡充された。介護用センサーの導入に必要なWi―Fi(ワイファイ)などの整備費にも補助がつき、台数の制限は撤廃された。20年度の導入計画数は前年度比42%増の2574件に増えた。ここに内閣府の「新型コロナウイルス感染症対応地方創生臨時交付金」も加わった。
同交付金では20年度の1次補正予算で1兆円、2次補正で2兆円、3次補正では1兆5000億円を給付。マスクや消毒液の確保など感染拡大防止策に加え、介護施設での出勤数削減や見守りのリモート化に向けたセンサーの導入支援にも利用された。
価格下がり導入しやすく 施設スタッフの負担減
製品価格も下がり始めた。バイオシルバーの介護用センサー「aams」は定価が17万8000円(消費税抜き)で、パラマウントの「眠りSCAN」の公表価格は16万円程度。だが実勢価格は10万円代前半に落ちてきている。19年12月に市場参入したテクノホライゾンは、主力製品「みまもり〜ふ」の参考価格を10万8000円(同)に設定。コロナ禍で問い合わせが増えたという。同社ファインフィットデザインカンパニーの長野光洋営業担当部長は「介護施設の人手不足だけでなく、事故を絶対に起こせないというスタッフの精神負担が和らいだと聞く」と導入のメリットを説明する。
20年春に参入したシンセイコーポレーション(東京都千代田区)は、介護用センサー「Care―Top」を実勢価格で9万―10万円程度で提案している。大東敏郎会長は「ここ1―2年で価格が下がってきた。それでも在宅に提案するには10万円を超えると厳しい」と指摘する。同社は販売台数の積み上げによる量産効果を出すために外販を強化。介護ベッド向けとしてフランスベッドに、センサーをOEM(相手先ブランド)供給している。自社ブランドでも在宅介護とスマートハウス向けに提案するなど、販売力の向上で価格競争力を維持する狙いだ。
スマート家電と連携も
在宅向けは訪問介護サービスや警備会社などの駆けつけサービスを睡眠データで高度化する。スマートハウスは睡眠を確認したら給湯器や暖房を切るなど、スマート家電との連携を狙う。浴槽にセンサーを搭載すれば、入浴中の心拍数からヒートショックによる失神を検知できる可能性もある。大東会長は「数が出ればコストは下がる。自社ブランドだけで年間2万台は売りたい」と意気込む。
在宅向けはニーズ多彩 個人に合わせたシステムが必要
課題は補助金からの卒業だ。バイオシルバーの原田社長は「補助金利用と自費購入は半々まできた。業界はぬるま湯が続くが、うちは自力でやって行ける」と断言する。
パラマウントベッドの下川真人次長も「導入補助は追い風になる。だが夜勤を省人化でき、介護施設にとって投資にかなう製品に仕上がっている」と自信をみせる。足元では自費導入が拡大。製品力での拡販につなげており、“補助金効果”からの脱却が進みつつある。
次の一手となるのが周辺機器との連携だ。各社が体温計や血圧計などの情報を集約したり、電子カルテやナースコール、携帯端末につないだりとシステム化を推進。パラマウントは排せつ検知センサーと連携したシステムも開発した。一人ひとりの排せつ周期がわかると、おむつの交換時間を最適化できる。排せつ物が残ったまま長く放置してしまうといった問題の解決につながる。
介護用センサーは製品が増えて価格が下がり、施設にとって投資に見合う製品に仕上がってきている。顧客となる社会福祉法人の投資体力は小さいが、国の導入補助策は追い風になった。さらに介護施設市場の先には在宅介護市場もある。
在宅介護は、見守り環境や必要なセンサーが千差万別だ。介護する家族や要介護者によって、何を計り、どんなタイミングでアラートを出せばよいかなど、製品のシステム構成が変わってくる。まとめて販売できる施設向けとは異なり、要介護者一人ひとりに合わせたシステム提案が不可欠となる。新市場の開拓には技術力や製品力に加え、よりきめ細かな提案型営業の手腕が問われそうだ。