銅が10年ぶり史上最高値に。EV需要の期待膨らむ
自動車や電子部品など用途が広い銅の国際相場が約10年ぶりに史上最高値を更新した。ロンドン金属取引所(LME)の3カ月先物が7日に1トン=1万400ドル台まで上昇し、2011年につけた最高値の同1万190ドルを超えた。米中景気の回復に加え、脱炭素化を背景に銅の使用量が多い電気自動車(EV)の普及期待が膨らみ相場を押し上げた。米国の巨額財政出動も支えとなり、11年当時は数日間の推移にとどまった同1万ドル台に定着する展開も想定される。
LME銅相場は20年3月に一時同4300ドル台に下落したが、需要の約5割を占める中国の景気底入れを受けて堅調に推移。年明け以降は新型コロナワクチンへの期待や米国の追加経済対策の発動もあって騰勢を強めた。
足元ではガソリン車比で銅が3―4倍使われるEVの普及期待の高まりも上昇を後押しする。国際エネルギー機関(IEA)によれば20年のEVとプラグインハイブリッド車(PHV)の世界販売台数は合計で前年比41%増の約300万台に拡大。中国やドイツの消費刺激策が奏功した。
また、バイデン米大統領は3月末にEVの充電設備設置を含む8年間の「米国雇用計画」を発表するなど、需要を中長期的に押し上げる材料も並ぶ。当面は急伸の反動を警戒して相場の上値は重そうだが、「高値は維持されて節目の1万ドルを意識した展開になる」(三菱UFJリサーチ&コンサルティングの芥田知至主任研究員)との見方がある。
国内でも銅需要は堅調だ。自動車生産の回復に加え、デジタル化の波で通信機器向けの銅コイル出荷が増加。日本伸銅協会は21年度の伸銅品需要が前年度比13・4%増となり、コロナ禍前の19年度水準も小幅に上回ると見込む。相場高騰で部品メーカーの調達費が増加しているが、旺盛な製品需要を背景に「材料調達を控える動きはみられない」(日本伸銅協会調査部)との声がある。
ただ年後半にかけては相場の調整リスクが潜む。景気回復を遂げた中国は21年の政策方針で、コロナ禍対応で拡充した財政・金融措置の正常化を示唆したほか、米国では量的緩和縮小の検討が夏場にも始まる見通し。銅市場からの投機資金の流出が広がれば、相場が軟化しかねない。
香港統治や知的財産権をめぐる米中対立の激化も懸念される。「中国のハイテク製品への規制が強まれば銅相場には弱材料」(芥田氏)とみられている。
充電インフラの整備には時間を要するため「EV普及はあくまで長期的テーマ」(野村証券の大越龍文シニアエコノミスト)であり、価格高騰は期待先行の様相も否めない。国内を含め新型コロナ変異株の感染拡大懸念もあり、相場と需要に調整圧力が強まる展開に備えを要しそうだ。