トヨタが岩手県葛巻町で買い物支援、「地域MaaS」のモデルケースになるか
トヨタ自動車が、地域住民の「困りごと解決」を通じたMaaS(乗り物のサービス化)の事業化を模索している。その一つが、岩手県葛巻町で実施している、過疎地での買い物支援だ。東北の未来に向けて「モビリティーカンパニー」がやるべきことは何か―。過疎地でのビジネスモデル構築と次世代技術の実装、地域課題の解決という難題に挑む。(名古屋・政年佐貴恵)
牧場や田畑が広がる葛巻町の小屋瀬地区。電話で事前注文した生鮮品や雑貨などを積んだ配送車が、1軒の住宅に到着した。「移動手段がなく買い物が困難だったので助かった。やり方が分からなかったが、これからお世話になりたい」と、荷物を受け取った高齢女性は笑顔だ。
これはトヨタや販売店のネッツトヨタ岩手(盛岡市)などが実施する地域支援活動の一環だ。廃業で商店がなくなった過疎地域に、トヨタの基金を活用してスーパーを開店。毎週土曜日に営業し、実店舗での買い物のほか買い物困難者への配達も行う。
高齢化が進み路線バスも1日数本と限られる同地区では、買い物に限らず移動の課題は多い。しかし住民はそれを当たり前と受け止め生活している。
一連の取り組みを視察したトヨタの山本圭司執行役員は「不便を許容している部分がある。住民の生の声を聞き、移動やトヨタ生産方式を活用したシステム構築などで、もっと便利なサービスを提供したい」と力を込める。
課題は収益化だ。鈴木重男町長は「自動運転でこれらの問題を解決してほしい」と熱望する。しかし自動運転車両はコストが高い。山本執行役員は「地域に合った自動運転の提供がメーカーの責任ではないか」と考えを示しつつ、「メーカーや販売店、自治体でいかにコストを下げて新たなモビリティーで収益化するか突き詰めるしかない」と断言する。
トヨタは水素事業では「人口30万人都市」を一つの目安としている。MaaSでも「過疎地モデル」が構築できれば、他地域への応用も可能だ。岩手での実証には東北の未来を作るとの思いも込める。「震災復興のためにはやり続けることが重要だ」(山本執行役員)。移動の新たな価値提供に向け動きだす。