日本のESG金融、「今が分かれ目」の理由
温室効果ガスの排出を実質ゼロにする「脱炭素」の達成に巨額の資金が必要とされており、ESG(環境・社会・企業統治)金融の拡大に期待がかかる。政府の会議に有識者として参加する日本政策投資銀行の竹ケ原啓介執行役員は「日本のESGが本質を伴うものになるのか、今が分かれ目」と指摘する。脱炭素時代のESG金融や金融機関の役割について竹ケ原執行役員に聞いた。
―菅義偉首相が1月、国会で巨額の環境投資を呼び込む金融市場を作ると宣言しました。
「ESGが金融市場で主流化したといっても、前提は(産業革命前比の上昇率)『2度C目標』だった。米バイデン政権の誕生もあって1・5度Cが目標となり、脱炭素の達成時期が50年へと前倒しとなった。時間軸が早まっており、乗り遅れるとまずいという危機感が出ている」
―脱炭素への設備投資を支えるESG金融が拡大しています。
「グリーンボンドの購入がESG投資という形式論がある。排出ゼロへ努力しているといった企業に融資をしたから、それでいいのか。ESGが表面的であると、必要なところに資金が届かなくなる。金融機関は投融資を通じてどのような効果をもたらそうとしているのか、考える時に来た」
―どのようなESG金融が求められますか。
「二酸化炭素(CO2)を排出する企業が脱炭素に移行するプロセスに金融の規律を入れることが重要だ。資金の使途に加え、脱炭素への企業戦略が問われる。金融機関は企業に対し、『この戦略では移行とはいえない』と厳しく指摘できないと規律が働かない」
―ESG金融商品の取引で、企業姿勢が厳しく問われている印象はありません。
「事業会社も自分たちが正しいのか、意見を聞きたいはず。建設的な対話ができる金融機関を求めている。その負託に金融機関は応えられるだろうか。脱炭素には高い次元の取り組みが必要だ。それにもかかわらず、緩い対話や居心地の良い話だけでよいのか」
―ESG金融の成熟化が求められそうです。
「将来、ESG投資は増えたが、厳しい取り組みが伴わないために日本の排出量が減らなかったという事態が起きうる。気候変動対策に不熱心と烙印(らくいん)を押されると、(輸入品に事実上の関税を課す)炭素国境調整措置の対象となり、日本製品は競争力を失う。金融界は悪貨が良貨を駆逐するような金融をしてはいけない。日本のESG金融が実質を伴うものになるのか、今が分かれ目だ」
【記者の目/対話によるレベルアップ必要】
グリーンと名が付いた金融商品が売れており、購入した側もESG投資家と名乗れる。竹ケ原啓介執行役員が指摘するようにESG金融は加速とともに、脱炭素への実効性も問われる。日本企業の競争力が弱まると、国内金融機関も淘汰される。金融界、産業界とも対話によってESGのレベルアップが必要だ。(編集委員・松木喬)