富士フイルムは日立の画像診断事業買収で欧米勢に追いつけるか
国内医療機器業界の構図が変わる。富士フイルムホールディングス(HD)は18日、日立製作所の画像診断事業の買収手続きが3月31日に完了すると発表した。富士フイルムHDは2016年に東芝の画像診断機器子会社の買収をキヤノンに競り負けており、今回の買収は悲願だ。画像診断機器市場は欧米大手3社が世界で高いシェアを握る。今後、世界のトップメーカーといかに渡り合うか、新しい競争が始まる。(石川雅基)
シナジー発揮
「当社の世界最先端の人工知能(AI)、画像処理技術と日立の画像診断機器を組み合わせることで、診断機能を高める」。富士フイルムHDの古森重隆会長は、19年末の記者会見で買収の狙いを強調した。事業会社の富士フイルムは医療用画像管理システム(PACS)で世界シェア首位。今後、システムと機器の開発、営業などでシナジー(相乗効果)の発揮を目指す。これまでも、X線診断装置で撮影した臓器の形状をAIで認識したり、状態を判別したりする機能を先駆けて開発してきた。
今回の買収額は約1790億円。日立は画像診断事業を全額出資の新会社、富士フイルムヘルスケア(千葉県柏市)に承継させた後、同社の全株式を富士フイルムに譲渡する。代表取締役には、旧日立メディコ社長も務めた日立製作所ヘルスケアビジネスユニットの山本章雄最高経営責任者(CEO)が就いた。
日立の画像診断事業はMRI(磁気共鳴断層撮影装置)やCT(コンピューター断層撮影装置)など幅広い製品群を手がけるが、富士フイルムは「製品の重複はX線撮影装置や超音波診断装置など少ない」と説明。効率的にポートフォリオを拡充できると見ている。
今回の買収で国内の医療機器業界の構図が変化する。日立の画像診断事業の20年3月期売上高を富士フイルムHDのヘルスケア事業に単純加算すると、最大手オリンパスやテルモと肩を並べ、三つどもえの競争となりそうだ。
売上高1兆円
今後の競争相手は欧米大手医療機器メーカーだ。英調査会社のエバリュエートによると、19年の画像診断機器の世界市場は売上高ベースで、独シーメンス・ヘルシニアーズ、米GEヘルスケア、蘭フィリップスがそれぞれ20%強のシェアを握り、キヤノンメディカルシステムズ(栃木県大田原市)が約10%で続く。富士フイルムHDと日立は合わせて8%程度となる見通しで、トップメーカーになるには欧米勢が牙城を築く先進国市場の攻略や新興国市場への進出が不可欠になる。
富士フイルムHDは、20年代半ばにヘルスケア事業の売上高を1兆円まで引き上げる戦略だ。収益強化を図りながら海外勢と渡り合うためには、買収事業とのシナジーをどれだけ得られるかがカギだ。4月に発表する中期経営計画で具体的な戦略を示すことが求められる。
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