ESG投資は約3000兆円!超金余り時代にマネーを呼び込む脱炭素・脱化石戦略
「2035年までに新車販売で電動車100%を実現する」。菅義偉首相は1月の施政方針演説でこう力説した。政府は50年のカーボンニュートラルの実現に向け、電動車100%を脱炭素化の重要施策に位置付けるが、なぜここまでガソリン車からの転換を急ごうとするのか。その答の一つがESG(環境・社会・企業統治)マネーの獲得競争にある。政府が描く自動車関連産業の成長シナリオを探った。
政府は当初、全ての新車販売を電気自動車(EV)やハイブリッド車(HV)などの電動車に転換する時期について「30年代半ば」としていた。だが首相の施政方針演説では年限を「35年まで」と明確にし、電動車の政策メッセージを強めた。自動車政策を所管する経済産業省幹部はその狙いについて「ESGマネーの分捕り合戦において日本が戦うためだ」と打ち明ける。
世界に滞留するESG投資は約3000兆円とされる。世界的な金融緩和に伴う「超・金余り時代」の中で、機関投資家はESGマネーの投資先を血眼になって探している。日本の産業界がこうした巨額の資金を呼び込むには、脱炭素・脱化石燃料というメッセージが欠かせない。ある政府高官は「年限があると日本の覚悟が世界に伝わる」と語り、投資家を強く意識する。
すでに欧州や中国は脱ガソリン車にシフトする意向を示しているほか、米国のバイデン政権も環境政策重視を打ち出しており、資金獲得競争は一段と激しくなっている。電動車分野の研究開発やインフラ整備は各国が総力を挙げて進めており、日本政府も待ったなしの状況だ。国際競争力を高めるにはイノベーション投資が不可欠であり、そのためには「民間のESG投資をどう巻き込むかが重要だ」(経産省幹部)と分析する。
現在、日本のEV販売は新車販売全体の約1%にとどまっている。政府は今後、世界中から資金を呼び込みつつ、研究開発や燃費規制を一体的に推進するほか、電動化が遅れていた軽自動車や商用車の対策も重点的に講じていく。また普及拡大を後押しするため、税制優遇措置などの需要喚起策も検討し消費者に訴求する方針だ。
一方、電動車に使う電力の安定供給など課題も多い。政府と産業界はこの高いハードルをどう乗り越えるのか―。