建設費は6倍、人件費は3割高い…。台湾TSMCが米国工場計画で二の足
半導体受託製造(ファウンドリー)世界最大手の台湾積体電路製造(TSMC)が進める米国アリゾナ州の先端半導体工場計画が早くも難路にかかる。建設費用が当初想定の数倍に膨れ上がりそうなほか、材料などのサプライチェーン(供給網)構築でも課題山積だ。同社と取引のある日系サプライヤーも多いが、高リスクから米国進出に二の足を踏む可能性がある。
「TSMCのアリゾナはえらい苦労しているようだ。業者から見積もりを取っている段階だが、台湾と比べてとてつもない金額らしい。建設費用だけで6倍だとか」(業界関係者)と米国の建設コスト高騰が直撃する。
TSMCは米アリゾナ州に建設する半導体工場を2021年内に着工し、24年の稼働を予定。回路線幅が5ナノメートル(ナノは10億分の1)の先端品を製造する。20年5月に発表した総投資額は120億ドル(約1兆3000億円)の見込みだった。
米国の人件費は台湾と比べて3割以上高いものの、労働生産性は逆に低いため、数字以上のレイバーコスト高がすでに悩みの種だ。「トランプ前政権に言われて地政学的リスクも含めて進出を決めたのだろうが、あの国に出るのは簡単ではない」(同)と経済合理性に疑問符が付く。
TSMCにとって台湾以外で初めての先端半導体工場であり、想定外の出来事が多発しているもよう。例えば、米国の各種規制が台湾や日本と異なり、従来のサプライチェーンをそっくりそのまま移設できない。「台湾の人たちもそれを知らなくて今、大混乱している」(サプライヤー幹部)と材料調達はメーカーの死活問題だ。
サプライヤー側にとっても、米国への追随はリスクが高い。新たな法規制への対応はコストアップにつながるが、そのコスト増分の負担方法はまだ不透明だ。加えて、TSMCはもともと取引業者への値下げ圧力が強いことで知られ、「途中で発注を止められたらと思うと怖くて手が出せない」(同)と躊躇する動きが目立つ。
また、半導体工場が集中する東アジア地域と違って、米国内で材料などを運搬・保管する物流網は十分に整備されていない。その全てをサプライヤーが1社単独で構築するのは容易ではない。これまでのTSMCとの関係が深ければ深いほど、今回のアリゾナ工場計画でサプライヤーは難しい選択を迫られそうだ。(編集委員・鈴木岳志)