なぜ?パナソニックがGSユアサへ鉛蓄電池を売却した理由
パナソニックは急速充電ができる鉛蓄電池を開発していた
パナソニックが鉛蓄電池事業をGSユアサに売却します。10月29日、4~9月期の決算発表の席上であった売却の発表は驚きました。
パナソニックの鉛蓄電池の歴史は80年。松下幸之助氏が大ヒットさせた「砲弾型電池式ランプ」(自転車ランプ)がルーツの松下電器の電池事業の歴史で、最も古い製品の一つが鉛蓄電池です。
鉛電池事業は売上高500億円規模で黒字。支えているのが「caos(カオス)」の名称でブランド力があるカーバッテリーです。パナソニックは家電中心からB2B事業へシフトする構造改革の途上で、B2Bの柱がカーバッテリーを含む車載事業です。車載事業には積極的に投資もしているようで、カーバッテリーもインドに工場を建設したばかりでした。
それに蓄電池の市場では圧倒的に鉛蓄電池が主流です。経産省によれば2011年の市場規模はリチウムイオン電池が1兆2000億円、鉛蓄電池が3兆7000億円。携帯機器向けで普及したとは言え、リチウムイオン電池はまだまだ高価。ビルなどの非常用電源のように大量の電池が必要な用途では、低コストな鉛蓄電池が使われています。これから電力インフラが整う途上国も同じです。
燃料電池車のようなエコカーでも、補助電源として鉛のカーバッテリーは必要です。風力などの再生可能エネルギーが作りすぎた電力を一時的に貯蔵し、電力系統に影響が出ないタイミングで送電する系統安定化用途でも使われています。
鉛蓄電池だと充電できる容量が少ないので、より多く充電できるリチウムイオン電池と組み合わせたハイブリッド式での利用も増えています。リチウムイオン電池だけだと高コストなので、鉛蓄電池との組み合わせで系統安定化システム全体としてコストダウンできます。
海外の無電地域では太陽光パネルと組み合わせた発電・蓄電システムが使われ始めており、鉛蓄電池は成長の余地があったはずです。
一方で大手による寡占化が進んでいます。世界最大手のジョンソンコントロールズは50%、国内大手のGSユアサが10%前後の世界シェアと思われます。パナソニックとしては大手との差が大きく、競争激化を見越して売却しました。
パナソニックは鉛蓄電池の新技術の開発にも取り組んでいました。最近のその成果を取材したばかりだったので、売却は意外でした。
パナソニックは急速充電ができる鉛蓄電池を開発して、コマツのバッテリー(電動)式フォークリフトの稼働時間を2倍に延ばした。鉛蓄電池は”枯れた技術“と思われ、用途も車載バッテリーや非常用電源にほぼ限定されている。パナソニックは鉛蓄電池事業の開始から80周年を迎えた現在、技術革新で新しい需要の掘り起こしを始めた。
新しい鉛蓄電池は1時間の充電で最大80%まで電池容量を回復できる。普通充電の3分の1の短さだ。電動式フォークリフトは蓄電池の電力で駆動するため充電が必要。リチウムイオン電池は高価なため鉛蓄電池が搭載されているが、充電に時間がかかる。普通充電だと日中6時間半ほど稼働させ、夜間に充電する使われ方が多い。このため夜間勤務があるような長時間稼働の職場だと、ガソリンや軽油を燃料とするエンジン式フォークリフトが主力だ。
新しい鉛蓄電池なら昼休みなどの休憩時間に充電できる。1日16時間に稼働時間を延ばした。パナソニックストレージバッテリー(静岡県湖西市)の吉原靖之商品技術部長は「電動式は排ガスや騒音がなく環境性能に優れているが、稼働時間が課題だった。新電池は急速充電によりエンジン式に迫る長時間稼働を実現した」と胸を張る。
急速充電を可能にしたのが生産技術。鉛蓄電池の電極は、細かい穴があいたシートを延ばしながら製造する。新電極は穴をより小さくして数を増やした。穴部分と電子を受け渡す活物質が触れる面積が倍増し、充電を高速化できた。
充電の制御技術も刷新した。高温部分だけの劣化進行を防ぐため、温度を均一にする制御手法を開発。電池の状態を見ながら充電量を変える制御も採用し、従来比50%増の1500回繰り返し使える長寿命化も実現した。
同社の鉛蓄電池はほぼ自動車向け。フォークリフト向け開発をきっかけに「大電力を扱う制御技術を開発できた。他の電動機器にも展開したい」(吉原部長)と意気込む。鉛蓄電池はリチウムイオン電池と比べ充電容量は少ないが、価格やリサイクル性で有利。同社は技術革新で欠点を補い小型電気自動車や福祉車両、建設機械、発電装置などに提案する。
(文=松木喬)
パナソニックの鉛蓄電池の歴史は80年。松下幸之助氏が大ヒットさせた「砲弾型電池式ランプ」(自転車ランプ)がルーツの松下電器の電池事業の歴史で、最も古い製品の一つが鉛蓄電池です。
鉛電池事業は売上高500億円規模で黒字。支えているのが「caos(カオス)」の名称でブランド力があるカーバッテリーです。パナソニックは家電中心からB2B事業へシフトする構造改革の途上で、B2Bの柱がカーバッテリーを含む車載事業です。車載事業には積極的に投資もしているようで、カーバッテリーもインドに工場を建設したばかりでした。
それに蓄電池の市場では圧倒的に鉛蓄電池が主流です。経産省によれば2011年の市場規模はリチウムイオン電池が1兆2000億円、鉛蓄電池が3兆7000億円。携帯機器向けで普及したとは言え、リチウムイオン電池はまだまだ高価。ビルなどの非常用電源のように大量の電池が必要な用途では、低コストな鉛蓄電池が使われています。これから電力インフラが整う途上国も同じです。
燃料電池車のようなエコカーでも、補助電源として鉛のカーバッテリーは必要です。風力などの再生可能エネルギーが作りすぎた電力を一時的に貯蔵し、電力系統に影響が出ないタイミングで送電する系統安定化用途でも使われています。
鉛蓄電池だと充電できる容量が少ないので、より多く充電できるリチウムイオン電池と組み合わせたハイブリッド式での利用も増えています。リチウムイオン電池だけだと高コストなので、鉛蓄電池との組み合わせで系統安定化システム全体としてコストダウンできます。
海外の無電地域では太陽光パネルと組み合わせた発電・蓄電システムが使われ始めており、鉛蓄電池は成長の余地があったはずです。
一方で大手による寡占化が進んでいます。世界最大手のジョンソンコントロールズは50%、国内大手のGSユアサが10%前後の世界シェアと思われます。パナソニックとしては大手との差が大きく、競争激化を見越して売却しました。
パナソニックは鉛蓄電池の新技術の開発にも取り組んでいました。最近のその成果を取材したばかりだったので、売却は意外でした。
パナソニック、充電高速化を実現
日刊工業新聞2015年09月04日面
パナソニックは急速充電ができる鉛蓄電池を開発して、コマツのバッテリー(電動)式フォークリフトの稼働時間を2倍に延ばした。鉛蓄電池は”枯れた技術“と思われ、用途も車載バッテリーや非常用電源にほぼ限定されている。パナソニックは鉛蓄電池事業の開始から80周年を迎えた現在、技術革新で新しい需要の掘り起こしを始めた。
新しい鉛蓄電池は1時間の充電で最大80%まで電池容量を回復できる。普通充電の3分の1の短さだ。電動式フォークリフトは蓄電池の電力で駆動するため充電が必要。リチウムイオン電池は高価なため鉛蓄電池が搭載されているが、充電に時間がかかる。普通充電だと日中6時間半ほど稼働させ、夜間に充電する使われ方が多い。このため夜間勤務があるような長時間稼働の職場だと、ガソリンや軽油を燃料とするエンジン式フォークリフトが主力だ。
新しい鉛蓄電池なら昼休みなどの休憩時間に充電できる。1日16時間に稼働時間を延ばした。パナソニックストレージバッテリー(静岡県湖西市)の吉原靖之商品技術部長は「電動式は排ガスや騒音がなく環境性能に優れているが、稼働時間が課題だった。新電池は急速充電によりエンジン式に迫る長時間稼働を実現した」と胸を張る。
新電極は穴をより小さく、制御技術も刷新
急速充電を可能にしたのが生産技術。鉛蓄電池の電極は、細かい穴があいたシートを延ばしながら製造する。新電極は穴をより小さくして数を増やした。穴部分と電子を受け渡す活物質が触れる面積が倍増し、充電を高速化できた。
充電の制御技術も刷新した。高温部分だけの劣化進行を防ぐため、温度を均一にする制御手法を開発。電池の状態を見ながら充電量を変える制御も採用し、従来比50%増の1500回繰り返し使える長寿命化も実現した。
同社の鉛蓄電池はほぼ自動車向け。フォークリフト向け開発をきっかけに「大電力を扱う制御技術を開発できた。他の電動機器にも展開したい」(吉原部長)と意気込む。鉛蓄電池はリチウムイオン電池と比べ充電容量は少ないが、価格やリサイクル性で有利。同社は技術革新で欠点を補い小型電気自動車や福祉車両、建設機械、発電装置などに提案する。
(文=松木喬)
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