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今日、異例の“土曜決算発表”の東芝。パソコン、テレビ、白物家電の分離急ぐ

完全売却も視野に
今日、異例の“土曜決算発表”の東芝。パソコン、テレビ、白物家電の分離急ぐ

自身の出身母体である半導体からリストラを加速させた室町社長

 東芝はテレビ、パソコン、白物家電の3事業の構造改革案として、事業を分離する方向で他社と交渉していることが分かった。事業売却や他社との共同出資による方法で東芝グループからの分離を検討している。いずれの事業も断続的に構造改革を行ってきたが、慢性的な赤字体質から抜け出せていない。業績回復の重しである3事業を切り出し、半導体と電力の2部門を中心に経営再建を急ぐ。

 東芝は3事業に関し、それぞれ他社と協議している。「売却か合弁会社か、やり方はいろいろある。ディール(取引)を詰めている」(経営幹部)。最終的には2016年2―3月までかかるとの見方もある。

 パソコン事業では、海外の大手パソコンメーカーとの共同出資で分社化する案が有力。業績への影響を少なくするほか、出資相手から調達してコストを引き下げる。一方、テレビ事業は規模が小さいため、海外メーカーへの売却も想定する。また白物家電は海外工場の売却を検討している。

白物家電は外資にとって魅力!?


ニュースイッチ2015年9月15日公開


 東芝が、国内の白物家電事業から撤退する可能性を明らかにした。14日に開かれた2015年4ー6月期決算発表の場で、室町正志社長は「家電部門は競争力に問題がある。速やかに改善しなくてはならない。国内は是々非々で判断し撤退の可能性もある」とまで言い切った。“制約なき構造改革”を打ち出してきた室町氏が、最初に大ナタを振るう対象が白物家電になりそうだ。家電メーカーが林立しているなかで淘汰の動きにつながるという見方もある一方で、「TOSHIBA」のブランド争奪戦が始まるかもしれない。

 東芝の白物家電の国内シェアは、洗濯機が3位、冷蔵庫が5位というポジション。主要製品でトップを取っているものはない。日立製作所がモーターやセンサー技術の強みを生かしたり、パナソニックがエコナビやナノイー、シャープがプラズマクラスターイオンやネイチャーテクノロジーの活用など、最先端の独自技術を前面に打ち出したモノづくりをしているのに対して、東芝はそうした点の訴求にも劣る。

 また、他社が市場創造型の製品を投入しているのに対して、東芝の場合は、課題解決型の製品が目立っており、結果として後追いというイメージがつきまとう。室町社長が「新製品投入が他社に比べて遅れている」と語っていたのも、そうした状況が背景にあるといっていい。

 口の悪い言い方をすれば、東芝がブランドタグラインに掲げる「Leading Innovation」の具現化から、最も離れたポジションにあったのが、白物家電事業といわざるを得ない。
 
 一方で、東芝は、白物家電事業の約3割を海外ビジネスが占める。この多くは、アジア市場。中国、インドネシア、タイの生産拠点、あるいは中国およびシンガポールのマーケティングセンターを通じて、アジア市場に最適化した製品の開発、生産に取り組んできた。すでに現地企画製品の投入実績もある。今回、「為替の影響を受けている海外の製造拠点の集約が必要」(室町氏)とも強調しており、今後、アジアにおける事業推進にもブレーキがかかるのは避けられない。

 4ー6月期の全社営業損益は、前年同期の476億円の黒字から109億円の赤字へと転落した。特に足を引っ張ったのは、白物家電、パソコン、テレビで構成されるライフスタイル部門。同部門は長年、構造的課題を抱え繰り返しリストラを実施してきたが、事業環境の変化に追いついていない。室町社長は白物家電と同様にパソコン、テレビ事業も国内からの撤退の可能性を示唆した。すでにテレビは事実上海外から撤退しており、パソコンも海外でどこまで競争力を維持できるかは不透明で、国内から手を引くことは実質的な事業撤退にもつながる。

 しかし、インフラに事業ポートフォリオを移している日立が、収益が苦しい中でも白物家電を維持しているのは、「コンシューマ商品は会社の顔であり、未だにブランドイメージを引っ張っているから」(同社幹部)だ。でも東芝は悠長なことは言ってられない。

三洋とハイアールの成功モデル


 一般的に白物家電の特徴は、その国の文化や生活習慣に根ざした製品づくりが求められる点にある。日本では、炊飯器に代表されるように、米を主食とした調理家電へのこだわりや、靴を脱いで生活する習慣にあわせた掃除機など、日本の生活習慣に最適化した家電が人気を博している。テレビなどのAV機器では、グローバルスタンダードのモノづくりが通用するのとは大きく異なる。
 
 過去の例をあげれば、三洋電機の洗濯機および冷蔵庫事業は、中国ハイアールに売却されたが、現在では、三洋電機の技術者によって蓄積された技術やノウハウを背景に、日本の利用者に最適化した製品を引き続き開発。これに、ハイアールの生産、調達力を加えることで、コスト競争力を持った製品を投入することに成功している。冷蔵庫では、国内で約10%のシェアを獲得しており、三洋電機時代に比べてシェアは落ちているものの、外資系企業としては高いシェアを維持している。
 
 また、業績悪化に苦しむシャープでは、構造改革による大規模な人員削減の実施により技術者が流出。これに着目したアイリスオーヤマは、大阪地区に研究開発拠点を設けて、家電事業の強化に乗り出すといった動きをみせた。

 東芝の白物家電事業は、日本での家電事業基盤を強化したい企業にとっては魅力的に映る案件だろう。むしろ、既存の国内家電メーカーよりも、小物家電で市場シェアを拡大しはじめている外資系企業にとっては、冷蔵庫、洗濯機、エアコンといった大型家電を持ち、日本で一定の地盤を築いている東芝の事業領域は十分買収対象になる。ブランドを継承するだけでもメリットを見いだす企業もあるだろう。
(文=ジャーナリスト・大河原克行)
日刊工業新聞2015年11月06日 1面
明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役ブランドコミュニケーション担当
一番注目しているのはパソコン事業。もともと米IBMの「シンクパッド」のフォロワー(追随者)という伝統があり、企業向けに欠かせないセキュリティーなどの技術蓄積もある。パソコン市場は顧客ピラミッドの下層が抜け落ちて、目減りしているが成熟産業の中で一定のパフォーマンスは期待できる。ただ東芝が主導権を持つ形の分離は難しいだろう。

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