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ロボットのキーデバイス国産化に動く中国の脅威

文=三治信一朗(NTTデータ経営研究所)技術力が高い日本製モーター、減速機の競合に
ロボットのキーデバイス国産化に動く中国の脅威

ロボット市場での競争力強化には部品産業を含めた戦略が必要(ハーモニック・ドライブ・システムズの製品=同社提供)

 中国は既に最大のロボット市場である。国際ロボット連盟(IFR)と中国ロボット産業連盟の統計によると、2003年から13年のロボット世界販売量は毎年14%の伸びを示しており、13年は全世界での販売量は17万9000台と史上最高である。

 産業ロボットの販売量のトップ3は、中国・韓国・日本であり、その中でも中国が1位である。さらに、サービスロボットの市場としても有望である。

 NTTデータ経営研究所は、中国現地での展示会などの視察を15年だけでも複数回行った。上海株の暴落があっても自動化熱は衰えることなく、活況を呈していた。失礼ながら、どう考えてもロボットに関係しないような人も、ロボットに勢いがありお金に関連しそう、ということで飛びついているのではないかと感じた。

 【飛躍的に成長】
 産業用ロボットメーカーの数は、この10年で飛躍的に成長を遂げた。2年前までは、先を行く日系の産業用ロボットメーカーとは10年以上の差があったように感じられた。日系の6割から8割程度の出来であり、展示会であるにもかかわらず、その動いている姿を見かけることはほとんどなかった時もある。

 しかし、今年になると産業用ロボットの展示が変わり、どの工程を対象にした展示かがわかるように工夫されるようになった。また、サービスロボットの展示では、大学側の展示で目を引くものが多かった。

 特に、ハルビン工業大学が今年1月に張家港の国貿酒店にロボットを主体としたレストランをプロデュースするなど、近年サービスロボットに力を入れている。サービス主体の中にロボットを取り入れるという試みは、今後、広がる可能性がある。
 
 【強国戦略】
 中国政府としても、ロボットを戦略的新興産業および強国戦略に組み込んでいる。第12次5カ年計画では、製造業の構造転換による質および効率の向上が主要目標となっていた。国家工信部が14年12月24日に「工信部の産業用ロボット産業発展推進に関する指導意見」を発表した「メイドインチャイナ2015」においても、ロボットは十大重点領域の一つに組み込まれている。

 ここでは明確に、ロボットとロボットのキーデバイスの国産化を進めることをうたっている。強い産業用ロボットメーカーとその高い要求に応え高い技術力を誇る日本のモーター、減速機などのキーパーツの競合となる見込みである。産業競争力を高めるには、どのような産業構造を作るかまでを見通さなければならない、と改めて気を引き締めた。

 
三治信一朗(さんじ・しんいちろう)NTTデータ経営研究所 事業戦略コンサルティングユニット 産業戦略チームリーダー シニアマネージャー。2003年(平15)早大院理工学研究科物理学及応用物理学専攻修了、同年三菱総合研究所入社。15年NTTデータ経営研究所に入社し産業戦略チームリーダー。
日刊工業新聞2015年11月06日 ロボット面
明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役デジタルメディア事業担当
三治さんは以前から部品の国産化に乗り出そうとしている中国の脅威を指摘していた。もちろんまだまだ日本の産業用ロボットの性能に中国のロボットは全然追いつけていないが、このキーデバイスを手中にするとその力が一気に縮まる可能性がある。今、おう盛な中国のロボット需要と中国政府の要望により、日本の大手ロボットメーカーは中国での現地生産を拡大しているが、それはキーデバイスの技術流出のリスクが高まることを意味する。メーカー側もそれは百も承知だが、どこまでプロテクトできるか。ロボットメーカー、部品メーカーが連携しながら対策を打たないといけない。

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