ニュースイッチ

失業者が増えるフィンランド、受け皿は「大学」にあり

失業者が増えるフィンランド、受け皿は「大学」にあり

ヘルシンキ大学公式サイトより(写真はイメージ)

フィンランドの失業率は2020年11月時点で6・9%。コロナ前からそれほど大きくは変わっていない。だが休業中の人も含めると数は大幅に増え、ハローワークに当たる機関の求職登録者数は、前年の同時期よりも8万6000人増えている。失業や休業にあっても最低限の生活は保障されるが、長引けば心身への影響などリスクは計り知れない。

そんな人たちの受け皿として大きな役割を担うのが大学だ。従来の公開講座に加え、失業・休業中の人たち向けに無償の講座が全国で続々と開講されている。講座はオンラインで、1000人を超える受講生を受け入れている大学もある。財源は政府からの補助金だ。すぐに仕事に役立つ商務や経営、人事、法律、心理といったものから、全く違う分野への転職を見込んだプログラミングや医療、ケアなどにも受講生が殺到している。

フィンランドはもともと社会人の再教育や生涯学習が盛んだ。失業率が普段から高く雇用が不安定。雇用の維持だけでなく、転職や新たなポジションへの挑戦のためにも、スキルアップや知識の更新は欠かせない。また、関心が年齢とともに変わることもある上に、昨今は技術や社会が急速に変化している。だからこそ、一人ひとりが学び続けることは社会のためにも有益だと国も企業も支援する。

継続的な学習の大きな担い手が大学などの高等教育機関だ。私が留学中も大学に年齢も背景も多様な人たちが集まり、それぞれのペースで学んでいた。当時の学友は卒業後もカルチャーセンターに通うような気軽さでさまざまな大学のコースを取ったり、他分野で学位をとったり、新たに習得したスキルで転職したりしている。40代になって薬剤師、保健師、秘書、プログラマーになった友人もいる。

それを可能としているのは第1に無料もしくは安価で学べる場があること、第2にワークライフバランスがある程度整っているため学ぶための時間が確保しやすいこと、第3にきちんと学んだことを評価する制度と文化があること。どの教育機関で学んでも、公開講座や自治体の生涯学習センターであっても、条件をクリアしていれば単位として認めてもらえ、後で学位を取る際に活用できる。受講した内容次第では給料や昇進にも反映されるため、やる気につながる。さらに最近はオンライン講座が増え、場所や時間を問わず受講できるようになった。

学び続ける国民を育てるというのは義務教育の目標でもある。社会の変化に対応して将来自ら学べるようにするため、学ぶ楽しみや自主性を養うことに重きを置く。さらに学び続ける重要性は現政権も強く説く。フィンランドは福祉国家の維持のためにも現在の就業率72%を今後75%に引き上げることを目指しているが、再教育の効果に期待を寄せる。雇用のミスマッチを解消し、起業やイノベーションを生み出すためにも、未来を見据えた知識やスキル習得を強く促す。国にとって国民は一番の資源。だから教育に投資もする。

未来のスキルと言えば、現在フィンランドが国を挙げて進めている無料オンライン講座がある。ヘルシンキ大学と企業のReaktorが作った人工知能(AI)の基礎を学ぶ「エレメンツ・オブ・AI」だ。世界中の人たちが受講できるよう英語で提供され、18年の開講以来、既に国内外60万人以上が受講した。あまりにも好評なため、フィンランドは19年に欧州連合(EU)へのプレゼントとして各国言語でこの無料講座を提供すると発表した。より多くの人たちがAIリテラシーを身につければ、研究や運用、開発が進み、より良い世界が実現できる、というのが無料講座の動機だ。

英語で受講した日本の友人は約30時間かかったようだが、論理的な思考の発展やビジネスにも役に立つと高く評価する。いつか日本語化されてほしいと個人的に願っている。さて、2021年、今年はどんな学びを始めようか。

(文=堀内都喜子<フィンランド大使館広報部プロジェクトコーディネーター>)
日刊工業新聞2021年2月2日

編集部のおすすめ