アフリカで拡大する中間層の需要の取り込みを進める豊田通商、その戦略とは
―新型コロナウイルスへの対応状況は。
「社員とその家族の健康と安全を守り抜くこと、無駄を排したキャッシュフロー経営、萎縮せず新しい投資を止めない―この3点を意識している。足元では電力やエネルギー、化学品、IT、物流、保険といった生活の基盤を支える事業が下支えしてくれている。感染拡大第3波もあり油断はできないが、自動車産業が持ち直し想定以上に回復が進んでいる。2021年3月期の当期利益見通し800億円達成には手応えを感じている」
―デジタル変革(DX)の取り組み状況はいかがでしょう。
「20年に専門組織『デジタル変革推進部』を立ち上げ、現在専任が16人、全社で100人強が携わっている。約300件のプロジェクト案がある。足元では業務の効率化や自動化など生産性向上・改善を狙った案件が多い。今後は既存ビジネスの付加価値増、新領域でのデジタル・イノベーション起こしなどを行っていく」
―どんな分野を強化していきますか。
「物流、IT、ヘルスケアなど“エコノミー・オブ・ライフ(命を守る経済)”に関わるビジネスが環境変化に耐性があることが分かった。そこに経営資源を充て、強化していく」
―新技術やサービスへの対応は。
「ネクストテクノロジーファンドや(アフリカでのモビリティー関連のスタートアップへ出資する)モビリティ54インベストメントを運営しており、21年度も継続していく」
―そのアフリカでのビジネスはどうなっていますか。
「自動車関連では昨年、スターレットの販売を開始し、拡大する中間層の需要の取り込みを進めている。現地での組み立て生産も強化しており、ケニアでランドクルーザーに加え、ハイラックスの組み立て生産も始めている。ガーナでは新会社を設立し、21年半ばごろにハイラックスの生産を始める予定だ。コートジボワールなど他国での展開も検討している。再生可能エネルギー開発にも力を入れており、風力などそれぞれの国に適した電源メニューを展開していく」
*取材はオンラインで実施。写真は豊田通商提供
【記者の目/生活関連事業の展開に注目】
貸谷伊知郎社長のいう「エコノミー・オブ・ライフ」は、フランスの経済学者ジャック・アタリ氏が提唱した考え方。足元ではITやエネルギーなど日常の生活と命を守るビジネスは堅調で、貸谷社長はさらなる強化に意欲的。自動車やアフリカ事業だけでなく、そうした領域での展開も要注目だ。(浅海宏規)