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コロナ禍の追い風吹く材料系ベンチャー、中長期で有望視される事情

コロナ禍の追い風吹く材料系ベンチャー、中長期で有望視される事情

メディギアのナノデバイスで腫瘍の中央右部分が青く酸欠に(同社提供)

コロナ禍で材料系ベンチャーに追い風が吹いている。技術の優位性を起点に事業を構築するため、投資から回収まで時間かかるのが特徴で、環境や医療、国連の持続可能な開発目標(SDGs)など、ぶれないニーズを事業のターゲットに据える企業が多い。だが、先が読めない時代こそ、中長期的な投資先として浮上している。ここに米国のバイデン次期政権の誕生で、環境や医療への大型投資が加わる。材料系ベンチャーは大波に乗れるか。(取材=小寺貴之)

海外から新潮流 ナノデバイス資金、米国に活路

「米国で1―2年かけて人間関係を築けば日本とは1ケタも2ケタも違う資金を調達できる。その価値はある」と、メディギア・インターナショナル(横浜市緑区)の田中武雄社長は目を細める。同社は東京工業大学発ベンチャーで医療デバイスを開発する。田中社長は米国での資金調達に力を入れる。

ベンチャーエンタープライズセンター(VEC、東京都千代田区)がまとめた2019年度の国内ベンチャーキャピタル(VC)投資金額は2891億円。米国のVC投資は19年が14兆5441億円と、日米で2ケタの開きがある。

日本ではカーボンニュートラルのために技術開発基金が創設され、第3次補正予算で2兆円が充てられる。一方、米国のバイデン次期政権は研究開発投資を4年間で3000億ドル(約31兆円)増額させる方針。対象は先端材料や健康・医療、バイオテクノロジー、クリーンエネルギーなど。気候変動政策としてはクリーンエネルギーと持続可能なインフラに4年間で2兆ドル(約207兆円)を投資する計画だ。

つまりベンチャーになる技術シーズも、ベンチャーを育てる環境投資もケタ違いに増えることになる。新エネルギー・産業技術総合開発機構技術戦略研究センター(NEDO―TSC)の森田健太郎海外技術情報ユニット長は「(バイデン氏の)計画は選挙向けで、まだ中身が詰まっていない。ただ確実なのは金額。巨額の予算を消化するには多くのプレーヤーが必要になる」と指摘。日本は国内ベンチャーを囲い込むのではなく、大きな潮流に乗せる施策が必要だ。

メディギアは日本で約4億円を調達、がん治療に使うナノデバイスを開発してきた。生体分解性の微粒子ががん細胞の近くで血管からにじみだしゲル状物質で覆って腫瘍を封止、“兵糧攻め”にする。製造会社も決まった。21年秋には量産仕様のナノデバイスで非臨床試験を始める。ただ世界規模の臨床試験をするには数十億円かかる。いずれ大型資金を調達するか製薬会社と組む必要があった。

田中社長は「米VCから投資を受けるには“身内”にならないといけない。そうすればシンジケート(協調)を組んで押し上げてくれる」という。競合企業の買収やロビー活動を後押ししてくれる。米国に現地法人を作る準備も進める。

株主と協業促進 ワクチン投与に先手

材料系ベンチャーは製品が世に出るまで時間がかかる。この間の投資を抑えるためにさまざまな知恵を絞る。ライトニックス(埼玉県草加市)は、パートナリングで開発を加速させる。同社はワクチン投与デバイスを開発するベンチャー。

ハンコのように、肌に押しつけると針が飛び出し薬剤を皮内投与する。針が樹脂製のためケースと針を分別せずに焼却処分できる設計だ。皮内投与の簡便さもあり、開発途上国など医療人材が不足する地域にワクチンが届けられると期待される。

現在はコロナ禍で採血デバイス事業がフル回転の状況だ。採血針も樹脂製で、個別包装と滅菌が評価された。福田萠社長は「これまで販売してきた数よりも大きな量の注文がきている」と説明する。採血デバイスの大量注文とワクチン投与デバイスの開発。現業と未来への投資の両方を対応するのは、従業員が限られるベンチャーには苦難だ。そこで株主のユニバーサルマテリアルズインキュベーター(UMI、東京都中央区)とともにパートナーとなる企業を検討している。

ライトニックスのワクチン投与デバイス試作器(同社提供)

コロナ後はグローバルで協調して感染症に対峙(たいじ)する時代になると考えられる。UMIの木場祥介社長は「ワクチン関連は市場が大きくなる。薬事対応や供給体制が重要で、これは大手の力を借りた方が早い」と説明する。今後、ライトニックスはワクチンメーカーなどと薬剤の投与量調整や臨床効果の確認を進めていく。

CO2削減、追い風 触媒・バイオ技術で貢献

エネルギーや環境に事業化の“出口”を求めた材料系ベンチャーも追い風だ。米国の次期政権だけでなく中国や欧州、日本でも二酸化炭素(CO2)排出量削減に向けて投資が進む。つばめBHB(東京都中央区)の中村公治執行役員は「石炭火力など、銀行がCO2を排出する案件に融資できなくなってきた。ESG(環境・社会・企業統治)投資も定着しチャンスが来ている」と説明する。

同社はラオスの水力発電を利用してCO2を出さないグリーンアンモニアを製造する計画だ。触媒技術でアンモニアの合成条件を低温低圧にし、水力発電に併設する小型プラントを可能にした。

株主である味の素の建屋を借りてパイロットプラントの建設コストを抑えた。年間20トンの運転能力を実証。アンモニアは化学肥料や化成品に幅広く使われる基盤的な材料だ。コロナ禍で世界的にサプライチェーン(供給網)が寸断されたため、緊急供給用の小型プラントのニーズが出てくると考えられる。こうした補助的な小型プラントはベンチャー主導でも建設できる。

Green Earth Institute(グリーンアースインスティテュート〈GEI〉、東京都文京区)は中国大手アミノ酸メーカーとの連携で事業の早期実用化を進めた。GEIは微生物の力で非可食バイオマスからアミノ酸やエタノールなどを製造する技術を持つ。アミノ酸のバリンはライセンス先の中国大手が年間1万―2万トン規模で生産している。中国で市場シェアの過半を獲得したとされる。

伊原智人社長は「バイオ化学の分野では中国企業が先端にいる」と説明する。中国企業はライセンス供与から半年で商用生産を始め、急速に生産規模を拡大した。GEIの技術が既存の発酵設備を転用できるという強みはあった。それでも顧客を見つけシェアを広げるスピードに驚かされた。伊原社長は「グリーンテクノロジーには21年から大きな波がくる。投資先として選ばれるためには実績が重要だ」と指摘する。波が来てから実績作りを始めていても間に合わない。日本には長く磨いてきた技術はある。世界から投資を集められるかが成長のカギを握る。

つばめBHBのアンモニア合成プラント(同社提供)
日刊工業新聞2020年12月17日
小寺貴之
小寺貴之 Kodera Takayuki 編集局科学技術部 記者
米国と日本で投資額を比べたら桁が変わるのは当たり前、大国と日本を比べること自体が間違いだと怒られることがあります。同時に、予想利益率からは回収を見込めない、実績のない事業にも桁違いの投資がされる。あれはリスクをとる投資でなく壮大な無駄だと批判されることもあります。それならば大国の巨大投資をとりに行こうと考えるのも自然な流れです。技術は水物で刻一刻と評価額が変わります。高値が付くときに高値が付くところに売る。これは普通のことです。日本としてはVB投資の金額を追いかけるよりもマネーに支配されずにVBに投資を誘因するからくりが必要なのだと思います。

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