40年に4500万kW。日本の洋上風力は脱炭素の風をつかむか?課題は産業構築
経済産業省と国土交通省は、政府と民間企業合同の「洋上風力の産業競争力強化に向けた官民協議会」で、洋上風力発電を2030年までに1000万キロワット、40年までに3000万キロ―4500万キロワットとする導入目標を掲げた。産業界として国内調達比率を40年までに60%、着床式の発電コストを30―35年までに1キロワット時当たり8―9円にする目標も設定した。カーボンニュートラル実現のカギを握る再生可能エネルギーの中で最も導入拡大が期待される洋上風力発電の産業が立ち上がる。(編集委員・川口哲郎)
脱炭素へ産業ビジョン 2040年目標4500万kW、世界3位へ
「魅力的な国内市場の創出を政府としてコミットし、国内外からの投資の呼び水にする」。梶山弘志経産相は15日開いた官民協議会で洋上風力への投資、サプライチェーン(供給網)の形成、技術開発を通じて国際競争を勝ち抜く次世代産業に育てる考えを示した。
7月17日に第1回協議会を開いてから5カ月足らずで産業ビジョンを策定した。出席した委員からは短期間のとりまとめや意欲的な目標を評価する声が上がった。40年の導入目標4500万キロワットは世界3位の市場規模となる。策定を加速できたのは脱炭素の要請や産業創出への期待を背景に官民のベクトルが合致したからだが、手本があったことも大きい。同じ島国の英国だ。英国が19年に策定した洋上風力産業戦略は、30年までに導入3000万キロワット、国内部品調達60%、サプライチェーン構築に最大2億5000万ポンド(346億円)の投資などが柱だ。
洋上風力の導入状況では英国が995万キロワットに対し、日本は2万1000キロワットと大きく後れをとる。差を詰めるためには継続的な案件形成が欠かせない。このための方策が、政府主導で案件を形成するスキームだ。風況や地質などの基礎調査、系統の確保、漁業者との調整を政府が行い、実証事業を立ち上げ案件の形成を加速する。
産業ビジョンで示した40年の地域別導入イメージは北海道が最大1465万キロワット、東北が同900万キロワット、九州が同1190万キロワットと他の地域よりも圧倒的に大きい。適地が偏在するため需要地まで効率的に送電するための系統インフラも整備し、21年春までに案を具体化する。直流送電や海底ケーブル開発も検討する。
日本では陸上風力が先行して導入されてきたが、山がちの国土のために設置場所が限られ、十分な規模の市場が形成されなかった。このため日立製作所など有力メーカーが軒並み撤退。09年に2500億円規模だった産業は18年に100億円程度にまで縮んだ。一方で、欧州を中心に普及が進んだ洋上風力は大型化が進み、風力発電タービンは現在、スペインのシーメンスガメサ・リニューアブル・エナジー、デンマークのMHIヴェスタスなどの世界重電大手が市場を握る。
国産化に向け部品供給網
「太陽光発電の轍(てつ)を踏んではならない」。地球環境産業技術研究機構副理事長で、協議会の山地憲治委員はこう指摘する。太陽光は現在、計6000万キロワット近い設備が稼働する。国民負担となる年間2兆4000億円の賦課金で支えられる一方で太陽光パネルは中国製が占め、8割以上を輸入に頼る。山地委員は「(国内の)産業が育たなかった。これを考えると早期にコスト削減が重要」と説く。
洋上風力は1キロワット時当たり29円で入札が行われているが同8―9円まで下げるためには国内供給網の整備が不可欠。洋上風力設備は構成機器、部品点数が多く、2万点近くにのぼる。タービンは海外勢に頼らざるを得ないが、その他の部品などのコストが60―70%を占める。これらの国産化がカギだ。政府も補助金や税制で設備投資支援を検討している。
浮体式の商用化開発カギ
遠浅の海が少ない日本では、40年の目標達成に向けて浮体式の実用化が欠かせない。水深50―200メートルの沖合で風車を海底地盤に固定せず、浮体により支持する方式だ。ただ、浮体式はまだ技術が確立されていない。政府が実証事業として取り組んでいた福島県沖の浮体式洋上風力発電設備は撤去が決まった。「3基のうち2基の故障が多くて稼働率が上がらず、発電量が少なかった。商用運転で求める経済性が見込めなかった」(業界関係者)とみられる。
浮体式は欧州でもまだ実証段階で、解消すべき課題も多いとされるが、日本風力発電協会(JWPA)は「風況の良い沖合ではポテンシャルが大きく、将来的には浮体式が中心になる」と予測する。産業ビジョンでは気象・海象が似ているアジアへの展開も見据える。浮体式の商用化開発など技術開発ロードマップを20年度内に策定する予定だ。浮体の安全評価手法の国際標準化などを通じ、浮体式の海外展開に向けた下地づくりも行う。
公募で事業者選定開始 価格・実現性、競り合い
19年4月に再エネ海域利用法が施行され、公募による事業者選定のもとに一般海域での30年の長期占用が可能になった。同法に基づき6月から長崎県五島市沖、11月から秋田県能代市、三種町及び男鹿市沖、秋田県由利本荘市沖、千葉県銚子市沖で事業者の公募が始まった。
能代市、三種町及び男鹿市沖はJERAや住友商事、由利本荘市沖はレノバなどを筆頭とする企業連合が組成され、応募を表明している。能代市沖は5組がひしめく激戦区だ。銚子市沖でも東京電力リニューアブルパワー(東京都千代田区)など3組以上の競争が見込まれる。
評価の方法は、価格が120点、事業実現性に関する要素が120点で、より高い点が選ばれる。価格の要素が大きく見えるが、1000億円を超える大規模投資に採算を度外視した安値は考えづらく、「価格だけが決定打にはならない」(中村成人JWPA専務理事)とみられる。
事業実現性のうち事業の実施能力が80点、地元との調整などが40点配分される。レノバは副社長が由利本荘市に常駐し、陣頭指揮を執る。地域との関係性も選考の重要な要素だ。五島市沖は21年1月から審査を始め、同年6月頃に選定結果が出る。秋田県、千葉県沖の計4区域は21年5月末から審査し、同年10―11月頃に結果が公表される。
今後、30年目標の達成には年間100万キロワット規模の案件形成が必要で、このペースに合わせて促進区域の公募、事業者選定がなされる見通し。浮体式の実用化をにらんだ技術開発も水面下で進んでおり、どの区域で事業化を目指すか各社の思惑はさまざまに絡む。海をめぐる陣取り合戦が白熱してきそうだ。