SONPOケアが介護施設の災害対策に力を入れるワケ
災害から高齢者を守れ―。SOMPOケア(東京都品川区、遠藤健社長、03・6455・8560)は、介護施設の災害対策に注力する。介護付き有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅など、運営施設ごとに適した避難訓練を実施。食料や衣類、簡易トイレの備蓄などを全社的に推進する。地震や水害への備えを急ピッチで進める。
【迅速に対応】
「今から2階に上がるので、僕の背中につかまってください」。東京都世田谷区にある介護付き有料老人ホーム「ラヴィーレ二子玉川」の斉藤翔太上席ホーム長が声をかけ、高齢女性をおんぶした。SOMPOケアの運営施設で実施した避難訓練の一幕だ。
近くを流れる多摩川の氾濫を想定し、1階が浸水する前に2階へ移動する。停電してエレベーターが動かない場合に備え非常階段で逃げる。「自力で歩行できない人もいる。車いすごと抱えて運んだり、担架を用意したりしている」(斉藤上席ホーム長)。
同ホームは1階に居室がないが、同社運営施設の中には設けられているところもある。災害時は各施設に応じた迅速な対応が必要だ。
近年頻発する豪雨災害。7月には熊本県の特別養護老人ホームで豪雨による浸水が発生し、多くの入所者が犠牲となった。介護施設の災害対策の重要性は高まっているが、十分な対策を講じられる施設は多くない。
介護事業者の多くは中小や零細企業で、災害対策に予算や人手を割くことが難しい。そうした介護業界の状況を反映して、同社は災害対策に力を入れることで他社との差別化を図る。
管理部の藤井雅啓総務課長は「50センチ以上の浸水が起こり得る施設では垂直避難を訓練している」と説明する。消防法では年2回の避難訓練が義務付けられるが、近年頻発する水害を受け、同社では2019年から対策を強化中だ。
【緊急連絡網整備】
地域や施設ごとに避難態勢や経路が異なるからだ。ラヴィーレ二子玉川のように、現場ごとに訓練を実施してハザードマップを確認する。全社的な対策としては、本社が災害時の動きをまとめた動画教材を作成して各施設に配布。発光ダイオード(LED)ライトや簡易トイレ、発電機などの備蓄を進める。入所者の家族への緊急連絡網も整備する。
足元の課題は避難後の対応だ。施設を利用するのは高齢者が多く、特定の持病を抱える人もいる。断水や停電が続く状況でも健康を維持できる対応が求められる。1フロアに複数の高齢者が避難しなければならない施設もあり、布団などの備蓄品が十分に足りるか検証が欠かせない。
新型コロナウイルス感染症など、衛生面の対策も重要だ。施設は普段、利用者だけでなく家族や関係者が出入りするため、感染が広がるリスクは高い。同社は業界団体「全国介護付きホーム協会」に加盟し、事業所間で感染症予防の情報を交換している。災害時も“3密”をできる限り回避し、利用者が健康を害さない体制を作っていく。(森下晃行)