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開発スピードは海外勢がリードするコロナのワクチン。国内産は質で勝負する

海外勢、低リスク・スピード重視 日本、安全性・“不活化”で実績

米国や欧州で新型コロナウイルス感染者が再び増加する中、ワクチンの必要性が一層高まっている。現在、海外製薬企業のワクチン開発が進展しており、実用化への期待が高まる。米モデルナ(表参照)は12月に米当局の緊急使用許可を得られる可能性に言及する。国内でも動物を使った試験や第1相試験といった早期段階の開発が進行中だ。(安川結野)

【早期導入】

現在、世界の新型コロナ新規感染者は1日当たり30万人前後で推移するが、米国や欧州で感染者の再増加が見られ、増加ペースは微増傾向だ。北半球が冬季に入り、新型コロナとインフルエンザの同時流行も懸念される。

こうした中、新型コロナのワクチン開発が海外の製薬企業を中心に急ピッチで進む。海外勢が力を入れるのは、「ウイルスベクターワクチン」や「核酸ワクチン」の開発だ。これらのワクチンは病原性のある生ウイルスを使わないため安全性のリスクが低く、早期開発が可能というメリットがある。

ウイルスベクターワクチンは、新型コロナ表面のスパイクたんぱく質の遺伝情報を病原性のないウイルスを使って細胞内に運び、新型コロナのたんぱく質を発現させて免疫反応を誘導する。英アストラゼネカと英オックスフォード大学が手がける「AZD1222」はウイルスベクターワクチンだ。

一方、核酸ワクチンは、ウイルスの遺伝情報であるデオキシリボ核酸(DNA)やリボ核酸(RNA)を投与し、細胞内で新型コロナのスパイクたんぱく質を発現させる。核酸ワクチンは米ファイザーのほか、国内ではアンジェスと大阪大学などが共同開発を進める。

海外で進むワクチン開発について国立がん研究センター中央病院感染症部長の岩田敏医師は、「ワクチンを早く国内に導入していくことが重要。そのために政府も交渉を進めている」と話す。日本政府はこれまでにアストラゼネカとファイザーとの交渉により、計2億4000万回分のワクチンの供給を受けることで合意した。

国内でもワクチン開発が進む。海外発ワクチンの試験が最終段階だが、国内で開発中のワクチンのほとんどは人に投与する前段階だ。KMバイオロジクス(熊本市北区、永里敏秋社長、096・344・1211)が開発を進める不活化ワクチンは、9月に動物を使った安全性試験を開始。実際に人へ投与する第1相臨床試験は、2020年内開始を見込む。

【選ばれる競争】

不活化ワクチンについて永里社長は、「開発に時間がかかるが、有効性と安全性は間違いないものが開発できると自信を持っている」と説明する。不活化ワクチンは生ウイルスをもとに開発するため、海外で開発が進む核酸ワクチンやウイルスベクターワクチンに比べ、開発に時間がかかる。しかしインフルエンザワクチンや日本脳炎ワクチンなどすでに多くの実績がある点が強みだ。

海外勢に後れを取るように見える国内のワクチン開発状況だが、岩田医師は「国内でワクチンを生産、供給することは危機管理上重要だ。不活化ワクチンには実績があり、安定感への期待は大きい」とし、国内でのワクチン開発の重要性を強調した。

新型コロナの世界的な流行が始まってから半年余りが経過し、ワクチンの臨床試験も最終段階に突入するものが出てきた。これまではどこのワクチンが一番乗りかという開発競争に大きな関心が寄せられていたが、今後複数のワクチンが実用化すれば、臨床でいかに選ばれるかという生き残りの競争へ変わっていく可能性がある。

日刊工業新聞2020年10月22日

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