工作機械業界にようやく薄日、自動車や半導体分野が突破口に
中国向け“けん引” 単月―着実な回復基調
米中貿易摩擦やコロナ禍の影響で受注低迷が長引く工作機械業界に薄日が差し始めている。日本工作機械工業会(日工会)の単月受注額は、5月を底に前年同月比の減少幅が縮小を続ける。一方、年間受注高は10年ぶりに1兆円を下回る見通し。米中関係の悪化や新型コロナウイルス感染再拡大のリスクも抱えながらも、本格的な回復軌道に向けて、今後の巻き返しが期待される。(土井俊、名古屋編集委員・村国哲也)
「新型コロナの世界的感染拡大が大きく影響し期初見通しの達成は極めて難しい状況だ」。日工会の飯村幸生会長(芝浦機械会長)は、コロナ禍の受注環境への影響について渋い表情を見せる。
日工会は、2020年の年間受注見通しを年初に1兆2000億円としていたが、コロナ禍の影響を踏まえ、9月に8500億円に下方修正を強いられた。製造業の設備投資に対する慎重な姿勢は、国内を中心に依然として根強い。それだけに飯村会長は、修正見通しについて「決して低いハードルではない」と指摘する。
一方、足元の受注環境は回復基調が続いている。DMG森精機の森雅彦社長は、受注動向について「4―6月期を底に、受注目標に向けた霧が晴れてきていると感じる」と説明する。オークマの家城淳社長も「4、5月に底を打った」と強調。今後の回復傾向が続くと見込み、「更新が必要な老朽設備が増え、ユーザーも投資を我慢できなくなってきた」(家城社長)と捉える。
受注回復の牽引(けんいん)役は中国市場だ。主要国に先駆けてコロナ禍を脱し、いち早く経済活動を再開した。政府のインフラ投資や需要刺激策が奏功。第5世代通信(5G)向けスマートフォンや半導体製造のほか、自動車販売も持ち直している。
ソディックの古川健一社長は「自動車関係からの需要が戻り、中国市場はそこそこ良い状態にある」と指摘する。同社は中国で江蘇省蘇州市と福建省厦門市に工場を持つが、どちらもフル生産時の8割ほどの水準まで稼働が戻っている。
DMG森精機は中国の回復が顕著でマシニングセンター(MC)を生産する天津工場(天津市)も「来年3月までフル稼働の状況」(森社長)という。20年7―9月期の連結受注高に占める中国比率は12%と、前年同期に比べ4ポイント増える見通しだ。
9月単月の受注高でも中国市場の回復ぶりが目立つ。売上高の約半分を中国が占めるツガミは、「中国で自動車を中心に幅広い業種で受注があった」(同社幹部)ことから、海外全体の受注額が前年同月比約4割増と大幅に伸びた。
オークマは半導体製造装置や油圧機器、風力発電向けなどで受注があり、中国向け受注は前年同月と同水準まで回復。牧野フライス製作所も電機・電子や商用車関連向けの受注が好調で「新型コロナの感染拡大前の水準まで戻っており、今後は乗用車向けの受注も期待できる」(業務部IR課)としている。
底堅い需要を受けて中国で増産投資を継続する動きもある。シチズンマシナリー(長野県御代田町)は、21年2月に山東省淄博市に新工場を建設しコンピューター数値制御(CNC)自動旋盤の生産能力を倍増させる。新型コロナ流行前の19年に投資決定したが当初の計画通り進める。中島圭一社長は「中国は将来、製造業の自動化・省人化ニーズがより強まるはず。長い目で見れば我々の投資は間違っていない」と、将来の成長性に期待を寄せる。
米中対立の行方注視 5G関連投資に影響
今後、米中対立がより激化すれば、回復を続ける中国の工作機械需要にも影を落としかねない。日工会の飯村会長は「(米中関係悪化により)技術のデカップリング(分断)が進んでおり、一定の影響が工作機械業にも必ず来る」と見る。
「米中間のIT覇権争いの激化の影響を懸念している」。米中対立の影響をこう受け止めるのは、微細加工機に強みを持つ、碌々産業(東京都港区)の海藤満社長だ。同社は5G向けスマートフォンや半導体関連需要が増加し、20年4―9月期の売上高は前年同期比3%程度増加した。雲行きが怪しくなったのは9月中旬。米政府が発動した中国通信機器最大手・華為技術(ファーウェイ)向けの輸出規制により、企業の5G関連向けの投資意欲が減退し海外の商談も少なくなったという。海藤社長は「来春まで5G関連投資は停滞するだろう」と予想。中国は成長のポテンシャルを踏まえると、今後も一層の成長が期待される。それだけに業界からは「米国と対立していては、今後の伸びにも限界がある」(大手工作機械メーカー首脳)と危惧する声も聞かれる。
自動化・衛生管理・DX…製造業の変革に商機
【製造業の変革、取り込む】国内市場の低迷や欧州での新型コロナ感染第2波による影響など、需要の先行きには不透明感が残る。一方で世界の製造業を見渡せば、以前からの自動化・省人化対応に加え、作業者の衛生管理に配慮した設備環境の構築、デジタル変革(DX)の推進など多くのテーマを抱えている。工作機械メーカーとしても今後の潜在的な設備投資需要として期待は大きい。
米中摩擦やコロナ禍の影響で、サプライチェーン(供給網)を再構築する動きも出ている。部品を安定調達するために調達国・地域の変更や、内製化に切り替えることで工場新設が見込まれ、従来以上の高い生産性や安定稼働を伴う設備の立ち上げが求められる。
そうした状況について、「ソリューション対応ができる日本の工作機械メーカーにとっては有利ではないか」(オークマの家城社長)との見方もある。本格的な回復軌道に戻る上で、日本勢の力量が従来以上に問われることになりそうだ。