実現近づく「空飛ぶクルマ」、政府も期待する裏で浮かび上がる課題
20XX年、東京。高層ビル群の上空には「空飛ぶクルマ」が飛び交い、SF映画さながらの光景が現実のものとなった。搭乗するのは、次の商談へと急ぐビジネスパーソンや、都心上空からの景色を楽しむ観光客ら。機内には操縦士は存在せず、乗客が目的地を選択すると自動で飛び始める。料金はタクシーに比べて少し高めだが、渋滞を気にすることもなく、目的地までの飛行はちょっとした優越感に浸れる―。
【初の飛行試験】空飛ぶクルマが当たり前のように利用される未来社会が近づいている。8月にはSkyDrive(スカイドライブ、東京都新宿区)が国内で初となる有人飛行試験の様子を披露し、国内外で話題をさらった。一方、政府も実用段階を見据え、ビジネスモデルや安全基準の議論に着手した。産業の芽を育てようと、実用化への機運が高まっている。
一般的に空飛ぶクルマは「eVTOL(イーブイトール、電動垂直離着陸機)」と呼ばれる。垂直離着陸を行い、時速100キロ―200キロメートル前後で高度150メートル前後の空域を自律飛行する。渋滞が激しい都市部や交通が不便な中山間地域などでの利用を想定している。世界では200―300社が開発を急いでおり、日本でもSkyDriveや川崎重工業などが参入している。
【23年実用化】政府も空飛ぶクルマの産業化に向け、環境整備に力を注ぐ。国土交通省と経済産業省は2018年にロードマップを策定し、23年を実用化目標に設定。今後、ビジネスモデルに関して官民で議論するほか、機体の安全基準や操縦者の技能証明などの制度設計にも着手する。経産省関係者は「どのように実現させるかというフェーズに入った。将来の絵姿を見ながらリアリティーのある制度やモデルを考える」と話す。
産業化の期待が高まる一方、課題もある。最大のハードルは安全性の担保だ。墜落するリスクがあるだけに航空機やヘリコプターと同等の基準が求められる。国交省関係者は「安全の担保と、国際的に統一された基準をどう作るのかを考える必要がある」と指摘する。他方で制度設計が過度に慎重になれば、実用化に意欲的な欧米や中国に先行されかねない。ある経営者は「遅れると輸出のチャンスがなくなる」と危惧する。
【1機に300億円】事業化の面でも難題が立ちはだかる。一つは日本の投資環境だ。ある投資家は「1機開発するのに、100億―300億円かかる。世界と比較すると(日本の投資額は)ケタが足りない」と打ち明ける。また、普及には国民的な合意形成が欠かせない。物流用途から始めて実績を積み重ねつつ、離島・山間部での人命救助にも利用し有用性を広く認知してもらう必要がある。
タクシーや自家用車のような感覚で利用できる社会が到来するのか。空飛ぶクルマの議論は始まったばかりだ。