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中国部品メーカーとの不良品トラブルをなくすには?ソニーで29年務めたコンサルが解説

雑誌『機械設計』連載 第16回 設計者でないからこそ確認できる製造現場
日本人設計者が中国メーカーに製造を依頼したときに発生しがちなトラブルの原因として、①中国人の国民性と,その国民性による仕事の仕方を理解していないこと、②本人の会話やメールなどでの情報の出し方が非常に曖昧であること、③設計者による中国の製造現場の確認が十分になされていないことの3つがあげられるという。本連載では,これら3つが原因となって発生したトラブルに関して,著者の経験に基づく実例をあげ,そこから得られた反省点とそれらの対策を紹介している。

前回は製造ラインの確認において,そこで製造される部品を設計した設計者でなければ確認が難しい内容に関してお伝えした。今回は設計者でないからこそ確認できる内容に関してお伝えする。

塗装しない部品が塗装される

筆者が日本に帰国して1 年ほど経った頃,医療用の白色のモニタをODM(設計製造委託)していた中国メーカーから突然連絡がきた。その内容は,このモニタで使用されている白色の体裁部品の色が通常生産している白色と異なるが問題はないか,というものであった。この部品はこのモニタのために調色したオリジナルの白色の樹脂ペレットを使用して成形されているが,その色が通常納品されている白色とは微妙に違うということだ。塗装していない部品のため,おそらく樹脂ペレットの色がばらつきの範囲内で若干ばらついたのだと推測された。このモニタを毎日組み立てている作業者が,そのわずかな色の違いに気づき連絡がきたのであった。

筆者はこの連絡にとても驚いた。それは,樹脂ペレットの色が作業者の目で判別できるほど変わってしまったか,あるいは逆に,作業者がこの微妙な色の変化に気づくことができた,ということである。

筆者が半信半疑でいたところ,翌日に続報が入った。この無塗装のはずの部品に,白色の塗装がしてあるというのだ。早速写真が送られてきた。しかし,写真では白色の違いはまったく判別できない。図面を確認したところ,やはり塗装の指示はない。それにもかかわらず塗装がしてあるという。

何が起こったのか,これらの2 つの連絡と写真からではまったくわからなかったが,ODMメーカーから連絡がくるほどの問題となると,生産を継続するわけにはいかない。問題の真相は何か,現地を訪問して自分の目で確認するしかなかった。

小ロット製品の悩み

早速,中国のODMメーカーを訪問して,問題の部品を確認することにした。本当に無塗装であるはずの部品に塗装されているのか,また色の違いが作業者でも判別できる程度になっているのかを確かめ,その対策を講じるためだ。

ODMメーカーに到着して,まずはこの機種を担当しているリーダーにこの問題の詳細を聞くことにした。すると,予想外の根深い問題が以前から潜んでいたとわかった。

この部品は,ODMメーカーから中国の成形メーカーに発注されている。実は今回の問題が起こる約2 年前から,この成形メーカーはこの部品の生産をやめたいとODMメーカーに要望していたらしい。理由は生産台数が少なく,あまり儲けになる仕事ではないからだ。医療用機器は生産台数が少ない製品が多くあり,そこで使用される部品は,どの部品メーカーも率先して受注したいものではない。しかし,メーカー同士のお付き合いや,ほかの製品の部品も受注しているため,部品メーカーは少数でも受注している現状がある。これは生産台数の少ない業務用製品では一般的である。

ODMメーカーはこの成形メーカーの要望を知りながらも,このモニタの生産が今後1~2年で終了してしまうため,生産を引き受けてくれるメーカーを探すのが難しく,また見つけ出したとしても金型移管は面倒な仕事であるため,対応が延ばし延ばしになっていたとのことであった。

部品に茶色いコゲが発生

このような状況下でこの成形メーカーが渋々成形を続けていたところ,金型部品であるホットランナーのヒータが故障してしまい,製品のゲート部に茶色いコゲが発生してしまったのである。本来ならヒータを修理して,コゲをなくしてから生産を再開すべきであるが,この成形メーカーはこれを機にこの部品の生産を取りやめにしてしまった。しかし,突然生産をやめてしまっては,当然ODMメーカーに迷惑がかかる。そのため2 カ月分の生産数だけ生産して,茶色のコゲを隠すために,オリジナル色の樹脂ペレットと同色の塗料でこの部品を塗装してODMメーカーに納品したのだ(図1)。

(図1)メーカーの相関。この問題はC社の独断で行われた

塗装していても,同じ色なら問題ないと判断したのであろう。筆者はODMメーカーで無塗装品と塗装品を見比べたが,一見したところ判別できなかった。部品の体裁面の裏面まできれいに塗装しているのだ。ODMメーカーの製造ラインの作業者はよく気づいたものだ。もし塗装品が市場に出回ってしまったら,それは規格外製品であり,大きな問題に発展してしまう可能性もあった。それを事前に防ぐことができ,安堵した。

成形メーカーとの関係性

この成形メーカーはODMメーカーが選定した会社である。筆者はこの問題の調査を始めるにあたり,まず成形メーカーの名前を知ることから取りかかった。筆者の前職の会社では,ODMメーカーの先にある部品メーカーをまったく知らずにモニタを生産していた。経験上,たとえODM製品であっても,設計者が自社の部品が製造されている部品メーカーへ訪問することは重要だと第5回(2019年11月号)でもお伝えした。

しかし,一般的に設計者は生産開始後に部品メーカーとかかわりを持ち続けることは難しい。ODM製品にかかわる設計者は1~2 人であり,生産が開始されると設計者は次の新製品の担当になるからだ。

よって生産開始後は,購買部や品質保証部が継続的に成形メーカーとかかわりをもつことが望ましい。ODM製品であるとはいえ,購買部が部品メーカーのアロケーションやコスト感を把握しておくことは大切であり,また品質保証部が部品の品質が維持できる製造ラインになっているかを知ることは大切だ。ODMメーカーにすべてを一任すのは危険だ。自ら訪問せずとも,ODMメーカーからの情報入手は必須である。問題が発生すると,最も大きな損失を被るのは結果的に製造を依頼した会社(図1のA社)だからだ。

今回の問題も,この成形メーカーがこの部品の生産をやめたがっていることや,金型に異常が発生し始めているかもしれないという情報も,継続的にかかわりをもっていたら入手できた可能性がある。つまり設計者ではないからこそ,部品メーカーの状況を把握できるのだ。

生産開始後の品質安定ノウハウ指導

ここからは,設計者があまり確認することのない検査工程に関して説明する。

検査工程においても治具はたくさん使用されている。次に紹介する治具は板金部品に取り付けられている複数の埋め込みナットの個数を数える治具である(図2)。

(図2)埋め込みナットの個数を数える治具。番号は数える順番を示し,数え漏れをなくしている。

検査工程は製造ラインとは別の部屋にあることが多く,設計者は確認を見落としがちでもある。また,このような治具がなくても生産前に別の方法で検査できるものは,生産開始当初は特に問題なく生産が行われる。しかし長期的視点で考えれば,部品の品質をより安定させるには,治具はぜひつくっておいた方がよい。生産開始後であっても,品質保証部の担当者はこのように検査で使用する治具を新規に作製したり,既存の治具の改善指導をしたりしてほしい。

生産開始後の検査方法の確認

検査は検査方法が定められており,「誰が」検査しても「同じ」検査方法になっているべきである。前述のように,治具を作製して検査方法を固定化してしまうのが一番良いのであるが,治具を作製するほどでもないような検査もある。例えば図3 を見ていただきたい。板金に圧入された埋め込みナットの抜去力の測定である。

(図3)板金に圧入された埋め込みナットの測定方法

設計者の中には,測定方法を図面に記載するほどでもないと考え,図面に「抜去力は10N以上」としか表記しない人も多い。以下は筆者の経験談である。抜去力は図3 のように,埋め込みナットを圧入した方向から垂直に抜く力を測定したい。しかし実際の現場では,プッシュプルゲージで反対の方向から押して測定していたのであった。それもプッシュプルゲージを手に持つため,それが斜めになったままの状態で測定していた。

埋め込みナットの場合は,抜いても押しても同じ測定値になるかもしれないが,大切なのは,設計者が意図したとおりに測定しなければならないことだ。本来は検査方法が検査標準書に図や写真付きで明確に表記されるべきである。しかし表記がなければ,品質保証部の継続的な訪問による確認で見つけ出すこともできるのだ。

設計者でないからこそ確認できる内容

以上にお伝えしてきたことをまとめる。  最初の話は,生産開始後,部品メーカーの生産状況と製造現場の成形機の成形状況に徐々に異変が生じてきたものである。生産開始後に設計者が訪問することはないので,このような状況変化は購買部や品質保証部の担当者が部品メーカーと継続的なかかわりをもつことによって把握するのが望ましい。

その次の話の生産開始後における品質安定化のノウハウ指導は,もちろん生産開始前にすべての取り決めを行い,生産開始時から治具が出来上がって検査方法が固定化されている状態が最も良い。しかし不良の発生が予測できず,生産開始後に不良品が発生し始めてから対処していく場合もある。

また最後の話の生産開始後の検査方法の確認は,設計者にとって想定外の方法で測定されてしまった例であり,生産開始後に初めて気づけることかもしれない。これらの事例も,生産開始後の品質保証部の担当者による部品メーカーとの継続的なかかわりが大きな役目を果たしている。

<著者>
ロジ 小田 淳(おだ あつし)
中国モノづくりの進め方コンサルタント。ソニーに29 年間在籍し,プロジェクターなど合計15 モデルを製品化。駐在を含む7 年間,中国でモノづくりを行う。中国での不良品や業務上のトラブルの発生原因が日本人にもあることに気付き,それらの具体的な対処方法を研修やコンサルで伝える。

<販売サイト>
Amazon
Rakutenブックス
Yahoo!ショッピング
日刊工業新聞ブックストア

<雑誌紹介>
【特集】空気圧機器・システムの製品・技術動向

空気圧機器・システムは、自動車や半導体、食品などの工場において、組立てや搬送などの自動化装置に数多く使われているのは周知のとおりです。自動機などの開発・設計者にとって、空圧設計は欠かせないスキルと言えます。一方で、さまざまな仕事が求められるようになってきた自動化装置では、空気圧機器・システムの製品および技術動向を知り、いかに開発・設計に活かすかが重要です。
 そこで本特集では、各種機器の製品・技術動向から、省エネルギー、IoTに至る応用事例のほか、技術トピックスとして空気圧制御の技術動向を紹介します。

雑誌名:機械設計2020年10月号
判型:B5判
税込み価格:1,540円

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