村田製作所は一日にして成らず(1)アップルわしづかみ!儲ける力は業界随一
次は自動車か、ウエアラブルか?強さの根源に迫る
ニュースイッチでは「電子部品」カテゴリーを新設しました。4月のサイト立ち上げ以来、特に電子部品関連の記事は注目度が高く、日本の製造業の中でも最も勢いのある業界です。今後も旬なコンテンツを随時公開していきます。
まずは業界の中でも収益力、技術開発力などで頭一つ抜けた存在の村田製作所。昨年2月に日刊工業新聞で全14回に渡って連載した「挑戦する企業 村田製作所」の記事を取り上げ、本カテゴリーのファシリテーターを務める京都支局の尾本憲由記者が、当時からの変化や変わらない強さなどについてコメントします。
電子部品業界で群を抜く収益力を誇る村田製作所。米アップルが常に動向を注視する数少ない日本企業だ。スマートフォン向けコンデンサーは、すでに“ムラタ・インサイド”になりつつある。その強さの秘密を必死に探ろうとするライバルたち。次は自動車か、身につける端末「ウエアラブル」か、それともM&A(合併・買収)か―。イノベーティブな企業を数多く輩出する京都を起点に、村田は新たな革新に動きだした。
古都・長岡京(京都府長岡京市)の本社エントランスに置かれたワイングラス。中にあるのはワインではなく、砂鉄のような細かな黒い粒の数々だ。肉眼では一つひとつの識別さえ難しい。その正体は世界最小クラスとなる積層セラミックコンデンサー(MLCC)。
MLCC首位の同社が、世界に先駆けて開発してきた最先端モデルだ。だが、この微小部品を使いこなせる顧客はまだ少ない。将来を先取りした製品開発力こそ、スマートフォン部品などで圧倒的な存在感を見せつける原動力だ。
電気を蓄える電子部品のMLCCは携帯電話やスマホの基幹部品。これらの市場とともに村田製作所も成長を遂げた。高機能スマホ1台当たりの搭載数は実に500―700個。最新の量産品である0402サイズ(0・4ミリ×0・2ミリメートル)では60%ものシェアを握り、競合メーカーを圧倒している。
もっとも、スマホ向けでは現在も一回り大きい0603サイズ(0・6ミリ×0・3ミリメートル)などが主流だ。0402サイズは当初、基板の実装が難しく、多くのメーカーが採用を見送った。そんな状況を大きく変えたのがアップルだ。
できるだけ大容量のバッテリーを内蔵しようと、アップルはあらゆる部品で最小サイズを追求していた。すでに極限まで小型化が進んでいたかに見えたMLCCだが、村田の超小型化への飽くなき執念が、「iPhone(アイフォーン)4」の採用へ結びつく。
「(売上高に占める)新製品比率は40%以上だ」―。1年前、新たな経営計画を策定したのを機に、社長の村田恒夫は開発陣に対しあらためてその重要性を説いた。他社にない高付加価値品を出せば、当然、売価は上がる。追随されても新製品を投入すれば、高収益のサイクルが続く。
コンポーネント事業本部本部長で常務執行役員の井上亨は「新陳代謝ができないとMLCCもたちまち構造不況業種になってしまう」という。次世代モデルのMLCCはわずか0・25ミリ×0・125ミリメートル(0201サイズ)。吹けば飛んでしまう大きさのため、今は顧客不在。井上も「超小型部品の需要はまだ見えない」と打ち明ける。
では0201サイズへの需要はいつ立ち上がるのか。井上は「顧客の使いだしは20年ごろ」と予想する。ところがウエアラブル端末が、スマホに次ぐ大口需要先として脚光を浴び始めたことで、0201サイズが市場に浸透する時期は予想以上に早まるかもしれない。
新製品比率はこの2年間で約10ポイントも上昇。14年3月期の営業利益率も14・6%まで高まる見通し。それでも社長の村田が新製品比率40%という数字にこだわるのは、厳しさを増すグローバル競争に勝ち続けるためだ。MLCCの市場にも、新興勢力の韓国サムスン電子傘下のセムコが台頭。日本勢の独壇場だったはずが、太陽誘電やTDKのシェアを奪い、すっかり勢力図を塗り替えてしまった。
技術・事業開発本部本部長で上席常務執行役員の濵地幸生は「非常に強力な企業に成長している」と警戒する。先週、連結子会社化することで合意している東光に対するTOB(株式公開買い付け)価格を引き上げた村田。技術開発もM&Aも熟成させる時間はない。
(敬称略、肩書きは当時のもの)
まずは業界の中でも収益力、技術開発力などで頭一つ抜けた存在の村田製作所。昨年2月に日刊工業新聞で全14回に渡って連載した「挑戦する企業 村田製作所」の記事を取り上げ、本カテゴリーのファシリテーターを務める京都支局の尾本憲由記者が、当時からの変化や変わらない強さなどについてコメントします。
“ムラタ入ってる!”スマホのコンデンサー
電子部品業界で群を抜く収益力を誇る村田製作所。米アップルが常に動向を注視する数少ない日本企業だ。スマートフォン向けコンデンサーは、すでに“ムラタ・インサイド”になりつつある。その強さの秘密を必死に探ろうとするライバルたち。次は自動車か、身につける端末「ウエアラブル」か、それともM&A(合併・買収)か―。イノベーティブな企業を数多く輩出する京都を起点に、村田は新たな革新に動きだした。
将来先取り
古都・長岡京(京都府長岡京市)の本社エントランスに置かれたワイングラス。中にあるのはワインではなく、砂鉄のような細かな黒い粒の数々だ。肉眼では一つひとつの識別さえ難しい。その正体は世界最小クラスとなる積層セラミックコンデンサー(MLCC)。
MLCC首位の同社が、世界に先駆けて開発してきた最先端モデルだ。だが、この微小部品を使いこなせる顧客はまだ少ない。将来を先取りした製品開発力こそ、スマートフォン部品などで圧倒的な存在感を見せつける原動力だ。
電気を蓄える電子部品のMLCCは携帯電話やスマホの基幹部品。これらの市場とともに村田製作所も成長を遂げた。高機能スマホ1台当たりの搭載数は実に500―700個。最新の量産品である0402サイズ(0・4ミリ×0・2ミリメートル)では60%ものシェアを握り、競合メーカーを圧倒している。
もっとも、スマホ向けでは現在も一回り大きい0603サイズ(0・6ミリ×0・3ミリメートル)などが主流だ。0402サイズは当初、基板の実装が難しく、多くのメーカーが採用を見送った。そんな状況を大きく変えたのがアップルだ。
できるだけ大容量のバッテリーを内蔵しようと、アップルはあらゆる部品で最小サイズを追求していた。すでに極限まで小型化が進んでいたかに見えたMLCCだが、村田の超小型化への飽くなき執念が、「iPhone(アイフォーン)4」の採用へ結びつく。
新陳代謝
「(売上高に占める)新製品比率は40%以上だ」―。1年前、新たな経営計画を策定したのを機に、社長の村田恒夫は開発陣に対しあらためてその重要性を説いた。他社にない高付加価値品を出せば、当然、売価は上がる。追随されても新製品を投入すれば、高収益のサイクルが続く。
コンポーネント事業本部本部長で常務執行役員の井上亨は「新陳代謝ができないとMLCCもたちまち構造不況業種になってしまう」という。次世代モデルのMLCCはわずか0・25ミリ×0・125ミリメートル(0201サイズ)。吹けば飛んでしまう大きさのため、今は顧客不在。井上も「超小型部品の需要はまだ見えない」と打ち明ける。
では0201サイズへの需要はいつ立ち上がるのか。井上は「顧客の使いだしは20年ごろ」と予想する。ところがウエアラブル端末が、スマホに次ぐ大口需要先として脚光を浴び始めたことで、0201サイズが市場に浸透する時期は予想以上に早まるかもしれない。
新製品比率はこの2年間で約10ポイントも上昇。14年3月期の営業利益率も14・6%まで高まる見通し。それでも社長の村田が新製品比率40%という数字にこだわるのは、厳しさを増すグローバル競争に勝ち続けるためだ。MLCCの市場にも、新興勢力の韓国サムスン電子傘下のセムコが台頭。日本勢の独壇場だったはずが、太陽誘電やTDKのシェアを奪い、すっかり勢力図を塗り替えてしまった。
技術・事業開発本部本部長で上席常務執行役員の濵地幸生は「非常に強力な企業に成長している」と警戒する。先週、連結子会社化することで合意している東光に対するTOB(株式公開買い付け)価格を引き上げた村田。技術開発もM&Aも熟成させる時間はない。
(敬称略、肩書きは当時のもの)
日刊工業新聞2014年02月18日 1面