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日本のデータサイエンティストの先頭を走ってきた富士通が考えていること

「糖尿病になるリスク」96%を超える予測精度を達成
日本のデータサイエンティストの先頭を走ってきた富士通が考えていること

安藤剛寿富士通イノベーションビジネス本部コンバージェンスサービス統括部マネージャー

 富士通は2011年に「データキュレーター」と銘打って、統計学の専門家や分析アルゴリズムに強い研究者、コンサルタントらで組織するビッグデータ(大量データ)分析の専門チームを立ち上げた。モデリングができる30人を中核に協力会社を含め総勢100人体制を築き、日本のデータサイエンティストの先頭を走ってきた。

 社内実践で先駆けたのは生活習慣病のリスク判定。健保組合の協力を得て、5年分で80万件に及ぶ社員の健康診断データから「糖尿病になるリスク」を予測。加えてレセプト(診療報酬明細書)や、社内で収集した歩数や脈拍などの健康データなども含めて分析した結果、96%を超える予測精度を達成した。

 次はインダストリアルインターネットへ

 予測を予防に役立てれば医療費の削減につながる。「3年がたち、企業や地方自治体などで商談が本格化してきた」(安藤剛寿イノベーションビジネス本部コンバージェンスサービス統括部マネージャー)という。最近はモノのインターネット(IoT)ブームと相まって、製造業からの商談なども相次ぎ、新展開を迎えている。

 分析のための期間は通常、8週間。手順は客先へのヒアリングから始まる。次に必要なデータを収集して、複数の特徴を抽出する。さらにその特徴を二次加工して、多次元で分析できる”空間(特徴空間)“を作り、これをベースに予測モデルを作成する。このモデルを何度も展開することで予測精度が高まる。一つの分析サイクルには最短3カ月が必要となる。

 ただ、実行環境は変化するため、「作成した予測モデルは、実際には2カ月程度しかもたない」(安藤マネージャー)という。そこで富士通は、予測モデルの作り方をフレームワーク(枠組み)として提供することに力を注いでいる。目指すのは広範な用途に対応できる汎用的なフレームワーク。「故障予測などの用途を入力すれば、それに合った予測モデルが出てくるようにしたい」(同)という。
 

安藤剛寿イノベーションビジネス本部コンバージェンスサービス統括部マネージャーに聞く


潜在価値を最大限引き出す
 ―データサイエンティストが脚光を浴びています。現状をどう見ていますか。
 「ビジネスに寄りすぎるためか、データをよく見ずに結論を出す傾向がある。我々のアプローチは『データに語らせる』ことだ。データをきちんと分析することで、ビッグデータが持つ潜在的な価値を最大限に引き出すことに力を注いでいる」
 
 ―ビッグデータ分析の苦労は。
 「分析の際に新しい発見を要求されるが、実際に人手では気付かないことを提示すると、『腑(ふ)に落ちない』と指摘されてしまう。データ本位とはいえ、業務を知ることは大切だ。重要なのは分析のアウトプットをどう活用するか。糖尿病の予測でも、結果をそのまま提示せずに、健康食の配達サービスを提案するなど、やり方はいろいろある」
 
 ―キュレーションサービスの進め方は。
 「ビッグデータ分析は最初の一歩が大事。そこは当社が請け負うが、予測モデルの運用や評価は顧客が行う。難しい問題が生じれば再び当社の出番となる。合わせて人材育成も支援する」
 (聞き手=斎藤実)
日刊工業新聞2015年10月19日 情報・通信面
明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役デジタルメディア事業担当
データサイエンティストはスタッフなのか事業部門なのか。その間を行き来する人なのか。企業によってそれぞれかもしれないが、富士通の場合、ITの会社らしい立ち位置のように感じる。

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