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認知症対策で異業種連携、“京都モデル”全国へ

認知症対策で異業種連携、“京都モデル”全国へ

協議会では19の参画企業が5チームに分かれ、サービスアイデアを検討。医療・介護・福祉関係者がオブザーバーとして参加する

京都で異業種連携による認知症対策が進んでいる。2019年6月、認知症患者が社会で快適に暮らすための製品やサービスの提供を目指す「認知症にやさしい異業種連携協議会」を設置。京都府を事務局に、医療・福祉関係者がオブザーバーとして参加する。初年度は金融や小売り業などを中心に19社が参画。共同宣言の策定やサービスアイデアを検討し、実際に効果検証事業に移る事例も出てきた。産業界が主役となって走りだした認知症対策の“京都モデル”には、全国から注目が集まりそうだ。(京都・大原佑美子)

【サービス検討】

協議会は京都府に事業所などを置き、高齢者を顧客に多く持つ企業が参画。5チームに分かれ、サービスアイデアを検討している。異業種が集い、既存技術の少しの改良などで患者にとって革新的なサービスが生まれることが期待される。

綜合警備保障(ALSOK)、地元タクシー企業のキャビック(京都市右京区)、京都信用金庫(京都市下京区)、セブン―イレブン・ジャパンなどのチームは、地域の認知症患者のQOL(生活の質)維持・改善を自治体の将来の医療費削減につなげ、これにより生まれる財源(削減可能な費用)の一部を事業費に充てることで、継続していく事業モデルを考案した。

同事業は9月、経済産業省の「サービス産業強化事業費補助金(認知症共生社会に向けた製品・サービスの効果検証事業)」に採択され、今後3年間で効果を検証する。

地域の認知症患者を対象に、協力者らと交流するウオーキングイベントを予定。対象者には近距離無線通信「ブルートゥースローエナジー」(BLE)タグを搭載したシューズを貸与し、歩数の管理ができる。協力者は京都府専用デザインの電子マネー「nanaco(ナナコ)」を配布して募り、決済時に一定の額が事業運営費の一部として寄付される仕組み。活動や寄付を通じて、啓発につなげることを想定する。

ALSOKの羽生和人HOMEALSOK事業部担当課長は「認知症患者は働きにくく経済的に厳しい。一方、認知症向けのサービスは一般に比べて高くなる。このジレンマを解消したい」と話す。

【事業化必要】

「日本における認知症の高齢者人口の将来推計に関する研究」(平成26年度厚生労働科学研究費補助金特別研究事業)による速報値では、12年における認知症の有病者462万人に対して、25年に約700万人にのぼると推定される。

高齢化を背景に増加する認知症患者に対して根本的な治療法がない中、京都府立医科大学大学院医学研究科の成本迅教授は「対象のビジネスを民間企業が事業化することが必要。一定数の患者がいて、それができる環境は日本だけ。モデルができたら、今後台湾、韓国、中国などに展開可能なのではないか」と期待を込める。

協議会ではほかに、認知症患者の家族の立場から“企業へお願いしたいこと”などを聞いたり、機運醸成のためのシンポジウムを開いたりするなど、参加者の理解を深めた。その上で認知症の人が暮らしやすい社会を作るために企業が取り組むべき目標「認知症にやさしい異業種連携共同宣言10か条」を策定。これを28日に発表し、協議会参加企業を募集する。

京都府健康福祉部高齢者支援課の中村早苗課長補佐は「認知症や高齢者向けのサービスを検討する企業なら(10か条のうち)どれかは必ず取り組める内容」と説明。「モノづくり企業など、全国からあらゆる企業に参画してもらい、京都府の取り組みを普及させたい」と意気込む。

今日9月21日は国際アルツハイマー病協会(ADI)が世界保健機関(WHO)と共同で定めた「世界アルツハイマーデー」。ADIは9月を「世界アルツハイマー月間」と定める。

イノベーションの輪を広げつつある“京都モデル”は、認知症への関心を高める一つの契機になる。

日刊工業新聞2020年9月21日

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