コロナで変貌するスマホ販売店、携帯各社はオンラインとの融合に苦慮
新型コロナウイルス感染症の影響で電子商取引(EC)が活況を呈す一方、消費者が実店舗でスマートフォンを購入したい需要は根強いことが分かってきた。オンラインだけではスマホの拡販は十分と言えず、携帯通信大手は店舗の感染症対策と利便性に工夫を凝らす。社会インフラの一種であるスマホの販売・サポート拠点を維持する使命も踏まえた取り組みが求められる。(斎藤弘和、苦瓜朋子)
手続き簡単新世代型 オンライン融合
「現時点ではオンラインで契約する割合は、ほんの数%。コロナ禍で昨年と比べると増えてはいるが、元々のパイは小さい。緊急事態宣言が解除された後は、また減っている」。KDDIの黒井真一執行役員は、こう説明する。同社が8月、2000人を対象に行った調査では、店頭でスマホ購入手続きをしたい人が約7割を占めた。一般的な消費者にとって「スマホ購入は数年に一度の体験」(松田浩路執行役員)であり、販売員に疑問点を聞きながら慎重に検討を進めたい人や、店頭で新端末を受け取るのを楽しみにしている人が多いことが背景にあるもようだ。
そこで同社は「お店の安心感に、オンラインの手軽さを加えた新たな店頭体験を提供する」(黒井執行役員)ための新世代型店舗として、26日に「auみなとみらい」(横浜市中区)をオープンした。消費者は来店前にオンラインで機種や料金プランなどを選択。店頭では、それらの情報が連携された端末を利用して機種変更手続きを進める。
新世代型店舗では機種変更の所要時間を従来比半分以下にできる可能性があると見込まれ、店内の混雑緩和も期待できる。KDDIは他店舗への横展開を検討する方針で、実現すれば感染症対策にもつながりそうだ。
ただ、コロナ禍で携帯通信大手の端末販売は苦戦が続く。例えばNTTドコモは2020年4―6月期の販売関連収入が、前年同期比46・3%減の900億円となった。外出自粛の機運に伴って来店者数が減ったことが要因の一つだ。店頭で手続きをしたい人の割合は多かったとしても、訪問を延期した可能性が考えられる。
19年10月施行の改正電気通信事業法で端末値引きが制限されたことも響いており、コロナだけが原因とは言えない。とはいえ、携帯通信大手各社は当面、従来型の接客をする店舗での端末販売が主力になる状況は変わらないだろう。それぞれの店舗に過度な負担をかけない形で感染症対策を進め、販売員や顧客の安全・安心を確保しつつ、端末販売を上積みしていく必要がある。
ロボが夜間除菌清掃 感染対策自動化
店舗では感染対策を自動化する取り組みを進めている。ソフトバンクは、全国のソフトバンクショップ、ワイモバイルショップ3000店舗に、人工知能(AI)による顔認識と赤外線カメラで検温できるシステムを導入した。マスクやメガネを利用したままでも1人当たり0.5秒で検温できる。
KDDIは直営店舗「au IKEBUKURO」(東京都豊島区)の入り口に画像認識技術を用いた体温測定器を設置し、来店者の検温を自動で行えるようにした。AIカメラで店内の混雑状況や端末への接触状況を見える化。ファームロイド(同板橋区)が開発した紫外線照射ロボットで夜間の除菌清掃も自動化した。
販売店で実施していたスマホ教室のオンライン化も進んでいる。NTTドコモはスマホの基本操作やインターネットの使い方など初心者向けの8講座をオンライン配信し、7月末時点で約60万件のアクセスがあった。ソフトバンクはオンラインスマホ教室にウェブ会議システム「Zoom(ズーム)」を活用。講師と受講者が双方向でコミュニケーションできるようにした。
4月に携帯事業に本格参入した楽天モバイルは、オンラインでの契約やスマホ購入に力を入れる。ほとんどの店舗が休業する中、4月のオンライン契約比率は96.5%に高まった。
同社はスマホで運転免許証などを撮影することによりオンラインで本人確認が行えるサービス「eKYC」の導入も予定する。端末組み込み型の通信SIM「eSIM」を利用すれば、オンラインでの申し込みから約1時間で開通できる。最新技術を用いたデジタル変革(DX)により、携帯販売店の滞在時間は着実に縮まりそうだ。