液晶だけじゃ無理!ジャパンディスプレイはヘルスケアに活路を見いだせるか
経営再建中のジャパンディスプレイ(JDI)は、ヘルスケア分野に活路を求める。需要変動の大きい液晶パネル依存から脱却し、安定収益を得られる新規事業の育成を急ぐ。債務超過の解消や不正会計問題への対応に一区切りつき、2020年度を「ターンアラウンド(事業再生)元年」と位置付ける。白山工場(石川県白山市)売却などアセット適正化も継続課題だが、経営危機の出口から見えた新たな光へ踏み出す。(編集委員・鈴木岳志)
脱“液晶一本足” 遺伝子解析事業 皮切りに
「ディスプレー一本足打法からの脱却を掲げ、量よりも収益性を追いかける」。JDIの菊岡稔社長は財務安定化後の成長戦略をそう断言する。「保有技術の棚卸しをしていくと、ヘルスケア・メディカル分野やセキュリティー分野と親和性が高い」。新規参入先の市場はおのずと絞られた。くしくも、ヘルスケア分野は新型コロナウイルス感染拡大により新たな需要が続々生まれている有望市場だ。JDIは従来の液晶パネル技術を応用した生体センサーや非接触操作型ディスプレーを武器に進出機会をうかがう。
現在、具体的に参入を検討しているヒト全遺伝情報(ゲノム)解析関連事業も生体センサー活用が肝になる。新事業開発本部の水谷倍貴本部長は「ディスプレーデバイスからセンサーデバイス、そしてサービス事業を目指す上で、とある会社とベクトルが合った」と出会いを明かす。ただ、参入に向けた協議はその1社とだけでなく、医療業界特有のサプライチェーンを踏まえて複数社と話し合っているという。
まず事業化の第1段階として試薬を届けて回収する検査・物流網やデータベースなどを整備し、遺伝子解析事業を立ち上げる。次にJDIの生体認証技術と、ウエアラブルデバイスを組み合わせて脈拍などの生体情報を取得する事業をスタートさせたい考え。さらに、これらを組み合わせ、各人に応じた即時の健康管理サービスを提供するビジネスモデルを想定する。「慎重に検討しつつ、数カ月以内に方向性を出す」(菊岡社長)とムダに時間をかけない。
JDIは将来、ヘルスケア関連事業で営業利益100億円を稼ぐ青写真を描く。19年度の営業損益が全体で385億円の赤字だっただけに、そのヘルスケアの夢が実現すれば経営の大きな助けとなるだろう。ただ、ゲノム解析事業のみで100億円の利益を生み出せるかは未知数であり、第2、第3の矢を早急に準備する必要がある。
ディスプレー応用 非接触操作型ニーズ拡大
ポスト・ウィズコロナ時代に合致する非接触操作型ディスプレーは医療現場などでニーズが拡大しそう。最高技術責任者(CTO)の仲島義晴執行役員は「長年取り組んできたタッチパネル技術に基づいており、非常に製品化に近い」と早期発売に自信を示す。
従来のカラーフィルターと偏光板を省いた透明ディスプレーも、飛沫(ひまつ)感染防止目的で店舗や職場に設置されているアクリル板の代替・高機能化需要が期待できる。
透明ディスプレーは「これまで主にAR(拡張現実)用途を想定してきたが、ハイジェニック(衛生的)な使い方もできるので、そういう方向性でも技術開発を進める」(仲島執行役員)と保有技術への追い風は強い。他には、医療用モニターとして使える世界最高級輝度の30・2型8K液晶ディスプレーを7月末に開発し、21年夏の量産開始を予定。
一方、スマートフォンなどのモバイルと車載用液晶パネル事業は売上高全体の90%(19年度実績)を占める屋台骨。菊岡社長は「もちろんやめるわけではないが、モバイル・車載はボリュームゾーンでなくハイエンドに特化して狙っていく」と薄利多売のビジネスモデルから距離を置きたい考えだ。
JDIはヘルスケアシフトとともに、原点回帰で「技術立社」として再起を図る。ただし、同業他社との不毛なスペック競争は避け、「真に顧客が求める性能」を追求する姿勢を徹底する。
電池残量のストレスから解放されるスマートフォンなど、利用者の願いをかなえる技術開発こそがJDIにとって真の活路となる。安心・安全や健康は顧客ニーズの最たるものだ。