日本一海洋プラゴミが流れ着く対馬に学ぶ「無駄を富に変える力」
無駄を富に変えてゆく―。そうした夢物語も現実になりそうだ。長崎県対馬市では、SDGs推進策として、海洋プラスチックゴミをリサイクル資源として供給していくことを構想。サーキュラー・エコノミーの世界的な潮流に乗り、日本一海洋プラゴミが流れ着くという弱みを強みに変え、対馬でしか学べないESD(持続可能な開発のための教育)によるスタディーツアーをつくり、企業や大学などとのつながりから循環経済を活性化させようとしている。
対馬に流れ着く海洋プラゴミ
国境離島の対馬は、南北82キロメートルと細長く、海岸線の延長は915キロメートルに及ぶ。対馬海流が日本海に流れ込む入り口に位置し、冬は大陸からの季節風が吹くという立地条件が重なり、毎年膨大な海ゴミが漂着する。その量は毎年2万立方メートルと推定され、その約7割は、韓国や中国など海外由来のゴミである。
対馬市では美しい海を取り戻すため、漁業者などの協力を得ながら回収事業に取り組んでいる。予算などの関係から全量を回収することはできず、年間約8000立方メートルにとどまる。山がちな対馬では、急峻(きゅうしゅん)で複雑な地形条件が相まって、海岸へのアプローチや搬出作業は容易ではなく、細々としたゴミまでも回収するのは極めて困難だ。
海ゴミの約7割がプラスチック類であり、放置状態が続けば、プラスチックの劣化が進み、温室効果ガスの排出やマイクロプラスチック化につながる。マイクロプラスチックが堆積している海岸もあり、海がしければ海中に流出し、日本海沿岸に影響を及ぼす恐れがある。だからこそ対馬での早期回収は、対馬だけのためでなく、わが国の海洋プラゴミ問題にとって重要な取り組みなのである。
しかしながら、毎年回収してもさらに増えている。2050年には海洋プラが地球の魚の総量を超すとの予測があり、増え続けることへの怒りと、人口急減にあえぐ対馬で今後誰が海ゴミを回収するのかという不安にかられている。やり場のない中でも諦めずに回収し続ける対馬だからこそ全国、世界に対して発信できるメッセージがある。
リサイクル 産学でつなぐ
海ゴミの根本的な解決には、地球規模の視野に立ち地域視点で行動することが重要である。学校教育でのESDに加え、韓国の釜山外国語大学校など海外の若者との清掃作業や交流ワークショップなど、国境ならではの啓発活動に取り組んでいる。
近年では、大学生や社会人の海洋プラゴミ問題のスタディーツアーに対するニーズが増している。そうした背景には、海洋プラ問題や脱プラへの世界的な関心の高まりがある。先般、立教大学でのオンライン講義でスタディーツアーの参加希望を尋ねたところ、約7割の学生が希望しており改めて関心の高さを感じた。
企業側の海洋プラゴミ問題やリサイクルに対する関心も高い。現在、対馬で回収された海洋プラゴミは島内のクリーンセンターでペットボトルや硬質プラスチックなどに分別されている。
それらの回収物は、過去、米国のテラサイクル(ニュージャージー州)に提供され、同社を通じて日用品容器原料として再利用された。また、伊藤忠商事はテラサイクルと連携し、対馬の海洋プラゴミを再利用した製品開発の可能性について検証している。
このような流れは対馬にとってチャンスだ。リサイクル率が上がれば最終処分費用の軽減につながり、回収活動促進や企業の海洋プラゴミ活用の取り組みへの支援に充てられる。スタディーツアーやリサイクルを通じて多様な企業とつながることができれば、企業版ふるさと納税などの財源確保により、海ゴミの回収量を増やし、美しい対馬の海を取り戻すことができる。
さらにはエシカル消費の浸透とともにツシマヤマネコ米や磯焼け食害魚のメンチカツ、有害鳥獣の島ジビエなど環境保全貢献型商品の消費拡大にもつながり、環境を守る生業が確立されるかもしれない。環境立島としての対馬のブランド価値を高め、企業のサーキュラーエコノミーの活性化にも島内の経済循環にも寄与できる。
これが“自立と循環の宝の島 対馬”を目指す「SDGs未来都市」としての当市の海洋プラゴミを切り口としたSDGs構想である。そのためにもまずは対馬で海洋プラゴミの現状を知るスタディーツアーが入り口となる。
ツアーは、海洋プラゴミの回収や分別作業体験、ツシマヤマネコやツシマウラボシシジミといった生物多様性保全の現場見学やSDGsワークショップなど、森里海すべてがそろう対馬の特性を生かしたメニューを盛り込みたい。
コロナ禍で募集ができず、本年度は少人数での試行にとどまるが、収束後、ツアーに参加し海洋プラゴミが行きつく末端、いや海洋プラ問題の最先端の地である対馬を見ていただきたい。
(文:長崎県対馬市しまの力創生課 副参事兼係長 前田剛)【関連記事】企業のSDGs活動の今