CEO「不退転の構造改革」も、これだけは済まない三菱自動車の土壇場
三菱自動車が従来の拡大戦略を転換し、東南アジア地域に経営資源を集中する。27日に発表した2023年3月期を最終年度とする3カ年の中期経営計画で同地域を「成長ドライバー」と位置付け新工場の設置準備や販売力の強化を図る。一方、競争力が落ちた欧州地域には新規車種の投入を凍結するなど、構造改革を加速する。増大した固定費を削減するため、人員や国内生産体制の見直しにも乗り出す。(日下宗大、西沢亮、松崎裕、鎌田正雄)
4カ国に照準
「選択と集中を基本にASEAN(東南アジア諸国)を基軸とした事業体制に移行する」。同日会見した加藤隆雄最高経営責任者(CEO)は、こう力を込めた。中計では東南アジア地域、とりわけインドネシア、タイ、フィリピン、ベトナムをターゲットに生産能力や販売体制を底上げする。
三菱自のマーケットシェアを見ると同地域に注力する理由が分かる。20年3月期の前述4カ国のシェアが08年3月期と比べると4ポイント増の10・6%に成長した。一方、日本は半減の2・1%。欧州や北米はそれぞれ1%以下のまま横ばい状態だ。限られた経営資源を東南アジア地域に集中投下する。
ベトナムには新工場を設置する方針だ。同地域向けの多目的車(MPV)「エクスパンダー」の生産も始める。タイでは環境技術のコアとなるプラグインハイブリッド車(PHV)の生産・販売、フィリピンでは小型商用車の域内向け生産・輸出にも着手する。
販売網については店舗数の拡大や販売品質の強化を打ち出す。23年3月期には4カ国でのシェアを11・4%に引き上げを狙う。「いずれの国でも3位以上を確立する」(加藤CEO)。
日本半減、欧州・北米横ばい
固定費の削減などといった構造改革については「不退転の決意で」(同)臨む。国内生産子会社のパジェロ製造(岐阜県坂祝町)は21年上期に稼働を停止し、工場を閉鎖する。これで三菱自の国内完成車工場は2拠点に減る。完成車工場のほか、エンジン工場などの拠点もある。取引のある自動車部品メーカー幹部からは「さらなるリストラの可能性もあるのでは」といった声も聞こえる。
増大した人員の削減も行う。日産自動車と仏ルノーのアライアンス(企業連合)と合わせる形で従業員数が増えていた。新規採用の抑制や希望退職制度、報酬制度の見直しなどにより、間接員労務費を現状比15%削減する。
販売競争の激化などで赤字体質の欧州地域には新規車種の投入を凍結する。既存車両の販売や車両のアフターサービスは継続することから「撤退という整理はしていない」(加藤CEO)とするものの、実質的に販売撤退に向かいつつある。
収益力改善が急務
東南アジア地域の集中的な強化と、構造改革の推進、そしてアライアンスを活用したシナジーの創出。これらの取り組みにより、収益力の改善を図る。21年3月期は、営業損益が1400億円の赤字になる見通しだ。ただここから反転攻勢をかけ、まずは23年3月期で500億円の営業黒字を実現する。さらに先の売上高営業利益率については23年3月期2・3%に対して、26年3月期は6・0%を目指す。
前の中計では6・0%超の目標は達成できなかった。まずは始まったばかりの中計期間中に掲げた「選択と集中」、そしてコスト改革が徹底できるか。今後の成長の試金石となる。
日産・ルノーと連携強化 車台共通化/開発役割分担
三菱自は、日産やルノーとのアライアンス強化策を活用し、構造改革を加速する。技術や地域ごとにリーダー役を担う1社を決め、開発や生産を効率化。例えば共通採用する車台を車型などに応じて1社が開発し、共通して開発する範囲を車台だけでなく車体にも拡大する。商品ごとにリーダーが他社ブランドの車両を開発し、必要に応じて生産も集約。これらの対応で研究開発や設備も含めた投資を1車種当たり最大4割削減する。
技術面では自動運転などの運転支援を日産、コネクテッドカー(つながる車)をルノー、プラグインハイブリッド車(PHV)を三菱自が担うなど開発の役割分担を明確化。地域でも日産が中国や北米、ルノーが欧州や南米、三菱自が東南アジアなどでリーダーとなり生産や販売を主導する。三菱自は得意分野や地域に投資を集中する一方、重複する事業を合理化することで、競争力の向上と固定費削減の両立を目指す。
会見要旨 深刻度「リーマン」以上
三菱自の加藤CEO、矢田部陽一郎共同最高執行責任者(COO)との一問一答は次の通り。
―リーマン・ショックやリコール、燃費不正問題などで構造改革を過去にも行っています。過去と比べ深刻度はどのくらいですか。加藤氏 深刻度はリーマン・ショック時より大きい。構造改革をしっかり行い、将来の収益性向上につなげる。
―欧州事業は撤退ということでしょうか。加藤氏 撤退ではなく、新規商品の投入の凍結だ。現行車種の販売は行う。
矢田部氏 今後、排ガス規制などで販売できない車が出てくる。適応する車がなくなれば将来的に販売から撤退ということになる。
―米中対立がある中、中国で広州汽車と連携して環境規制に対応する背景は。加藤氏 広州汽車とはアライアンスを組む前から協力してきた。従来のパートナーと協業を進めるということでアライアンス各社から理解を得ている。
―新型コロナの影響を含め市場見通しが難しい中、21年度以降業績が回復するという見通しの背景は。加藤氏 21年度以降、市場が回復するという一定の前提のもとに(中計を)算出した。市場動向に関係なく構造改革に集中することが最も大事なこと。パジェロ製造の閉鎖も新型コロナの影響とは関係ない。