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遠隔操作クローラーロボット、こだわったのは「日常使いできること」 

遠隔操作クローラーロボット、こだわったのは「日常使いできること」 

下水管の点検に向かうロボット(サンリツオートメイション提供)

サンリツオートメイション(東京都町田市、鈴木一哉社長、042・728・6121)は、遠隔操作型のクローラーロボットを手がける。普段は地下の配管などの点検保守、災害時にはがれきの中を進む現地調査に利用できる。災害対応ロボットは災害用途限定では事業が成り立たないという課題があった。普段から使われる用途と、使いやすさを備えて初めて災害の時にも役に立つ。

高圧洗浄に対応

「日常使いできるロボット。これが最低限の開発目標だった」と高倉広義取締役は振り返る。一般にロボットは普段から稼働させ、メンテナンスしていないと緊急時に動かすことは難しい。災害の時だけで維持するのはコストが大きく、普段から動くロボを災害時に活用する仕組みが望ましい。そこで日常使いの用途を配管検査に定めた。

道路の下を走る下水管や農業用水路、工場の排水インフラなど、狭くて汚い配管を泥だらけになってロボが点検する。開発にあたり三浦貴彦主任技師は配管調査を重ねた。三浦主任技師は「配管の中に入る人は汚泥と蛇や蚊に悩まされる。配管の外で待つ人も熱中症のリスクがある。できる限りロボットに置き換えたい仕事だった」と話す。

防水設計のため高圧洗浄機で洗える(サンリツオートメイション提供)

同社のクローラーロボットは水深20センチメートルまで水に漬かっても走行でき、高さ20センチメートルの段差を乗り越えられる。水路にたまった枝やがれきに強い。調査が終われば高圧洗浄機で直接洗える。ロボットは精密機械の塊だ。パーツを分解して泥を落とし、乾燥させて組み直していると、洗浄作業に1カ月程度かかってしまう。高倉取締役は「高圧洗浄は業務で使うには必須。それに耐える防水設計に力を注いだ」という。

本体重量は25キログラムに抑えたため、機体を宅配便で送れる。全長72センチメートルで普通自動車のトランクに収まる。1人で持ち運べ、普段も災害時も現場に駆けつけられる。同社はインフラの点検を請け負う会社に販売する。価格は300万円(消費税抜き)から。ロボット事業として10年後に10億円の売り上げを目指す。

公的インフラへ

まず上下水道や道路など、公的なインフラ点検への普及を目指す。これは普段と災害時の用途が連携しやすいためだ。水道局と消防が連携協定を結び、災害時には上下水道のメンテナンス会社にロボット調査を要請するなど、公的機関同士は知見を融通しやすい。台風などの水害の後は配水路の点検が必要になる。連携すればロボットの配備コストを抑えられる。

もともと同機は産学連携で開発してきた。東京都立産業技術研究センターが技術協力し、災害対応ロボの知見は愛知工業大学、道路点検の知見は中日本高速道路(NEXCO中日本)グループが協力した。高倉取締役は「本物の現場で点検作業や機体性能を検証できたため、使える製品に仕上がった」と連携の利点を説く。

災害対応ロボは災害を知り、インフラ点検を知り、ロボット技術を知らなければ開発できなかった。そして普及にあたっては運用する事業者の連携が重要になる。災害への備えを日常的なものにできるか注目される。

(取材・小寺貴之)
日刊工業新聞2020年6月22日
小寺貴之
小寺貴之 Kodera Takayuki 編集局科学技術部 記者
災害専用にロボットを動かす操縦者を訓練し、機体をメンテナンスし、安く交換パーツを供給する。こんなことができるのは火災などの、限られた災害用途です。火災への対応も消防車を買う予算や維持費を捻出するのに苦労していたりするので、めったに使われないシーンの災害ロボは日常使いと共用する必要がありました。ドローンが共用の成功例になるはずですが、まだ事例は少ないです。地上を走るクローラー型も続いてくれると思います。

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