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1万5000超の医療機関が導入したオンライン診療、感染防止だけじゃもったいない!

新型コロナウイルスの感染拡大をきっかけに、オンライン診療を導入する医療機関が増えている。2次感染を防ぐことを目的に、対象疾患の制限や初診の不可といった普及を妨げていた規制が、一時的に緩和されたためだ。患者の日常的な健康情報を測定し治療の質を高めたり、臨床試験に活用したりと、オンライン診療のメリットは多い。このまま利便性の周知が進み、規制緩和が継続すれば、医療のニューノーマル(新常態)として普及する可能性がある。

「映像から患者の生活環境がわかるし、リラックスして診察を受けてもらえる」。ユーカリが丘アレルギーこどもクリニック(千葉県佐倉市)の松山剛院長は、実際に在宅患者をオンライン診療したメリットをこう話す。「今後は医療のパラダイムシフトが加速する」と予見するのは、テルモの佐藤慎次郎社長。新型コロナ収束後もオンライン診療を活用する医療機関が増える可能性は高く、これを機に医療のデジタル化やリモート化が一気に加速すると見ている。

オンライン診療はスマートフォンなどを利用した遠隔医療の一種だ。診療報酬が対面の約半分で、特定の慢性疾患しか保険適用されないなど、規制が厳しかった。初診患者を非対面で診察すると、重大な疾病を見落とす可能性もある。そのため日本医師会は同診療の活用に慎重だった。

しかしコロナ禍の中、医療機関での2次感染防止にオンライン診療が、がぜん注目され、規制緩和が進んだ。現在は全国1万5000以上の医療機関が導入。今回の規制緩和は一時的な措置だが、政府は収束後も継続する議論を開始した。「診療報酬が上がり、重症疾患も診られるようになればさらに普及が加速するだろう」と日本遠隔医療学会の長谷川高志常務理事は話す。

オンライン診療では場所や時間を問わずに診察でき、既存の治療にない付加価値も加えられる。例えばウエアラブル端末との親和性は高い。端末で患者の血圧や血糖値を日常的に測定し、疾病の悪化を未然に防ぐといった使い方ができる。

「創薬や医学研究の分野でも利用できる」と、医療系ベンチャーのインテグリティ・ヘルスケア(東京都中央区)の園田愛社長は指摘し、遠隔で新薬の臨床試験を行い患者の負担を減らす、検査数値の変化を継続的に測定し治療効果を調べるといった活用法を示唆する。オンライン診療向けアプリケーション(応用ソフト)などを手がけるマイシン(東京都千代田区)の原聖吾最高経営責任者(CEO)は「患者の状態を分析する診断学でも、オンラインの知見を反映した新分野が生まれそうだ」と期待する。新型コロナをきっかけとした遠隔医療の普及は、さまざまな側面から医療の質を変えることになりそうだ。

(取材・森下晃行)
日刊工業新聞2020年6月19日

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