全9回成功の偉業「こうのとり」、後継機は月へ
国際宇宙ステーション(ISS)に水や食料、実験器具などを運ぶ国産物資補給船「こうのとり」9号機が、大型基幹ロケット「H2B」で打ち上げられISSに到着した。こうのとりとH2Bロケットは今回が最後の任務になる。これまで一度も失敗なくミッションを遂行し、日本の技術力の高さを世界に知らしめた。こうのとりで得られた技術や経験は、今後の有人帰還技術や惑星探査に生かされる。9回に渡るこうのとりの活躍を振り返る。(飯田真美子)
9号機、ISSに到着
9号機の打ち上げが成功し、10―20%がうれしい気持ち、80―90%がほっとした気持ち」―。こうのとりのミッションを統括する宇宙航空研究開発機構(JAXA)有人宇宙技術部門HTV技術センターの植松洋彦センター長は、ウェブ会議システムを使った日刊工業新聞の取材に笑顔を見せた。
新型コロナウイルスの感染拡大は、9号機の打ち上げにも影響した。現地で動員された作業員は例年比で20%減。手の消毒が徹底され、打ち上げの1カ月前からミッションに関わる人は毎朝の検温をするなど健康チェックに気を配りながら仕事をする必要があった。一般向けの打ち上げ見学場所も閉鎖され21日2時31分に無観客の中で宇宙に飛び立った。
9号機は宇宙ステーション補給機(HTV)の後継機「HTV―X」に採用する自動ドッキング技術に必要な無線LAN通信装置を搭載。9号機に設置したカメラでISSの動画を撮影し、ISSに伝送する実証実験をする。また宇宙空間で活用する遠隔操作ロボットをISSの日本実験棟「きぼう」に設置し実証実験をする。月面や月周回有人拠点での使用を目指す。
有人帰還・惑星探査後押し
こうのとりは10年以上の開発期間を経て、2009年9月に技術実証機として初号機が打ち上げられた。現在では世界最大の補給能力を持つ無人の物資補給船だ。ISSに接近しながらロボットアームで把持し係留する「キャプチャ・バーシング方式」を初めて採用。今ではISSへ物資補給を行う宇宙船で一般的な方式となった。
「HTV―X」は21年度に打ち上げ
こうのとりを運ぶH2Bロケットも今回で任務を終える。日本が独自の技術で開発し、人工衛星や探査機を打ち上げてきた大型主力ロケット「H2A」の能力を高め、低コスト化に成功した。後継となる新型基幹ロケット「H3」は高い信頼性や低価格化を実現する。民間の商業衛星を毎年打ち上げることも視野に入れている。エンジン燃焼試験などの開発が進んでいる。
こうのとりの後を継ぐ「HTV―X」は、ISSへの輸送能力や運用性が向上し運用コストを低減できる。国際宇宙探査を見据え、月を周回する有人拠点「ゲートウェー」などへの物資補給に対応する計画だ。植松センター長は「開発から20年近く培ってきたこうのとりの技術を伝承しつつ発展してほしい」と話した。
JAXAの山川宏理事長はHTV―XとH3ロケットについて「両者の開発が進むことで日本の自在な宇宙輸送を支える基盤がさらに強固になる」と期待する。HTV―XとH3ロケットは21年度の打ち上げを目指す。