総務省が固定通信「囲い込み」にメス、3割は10年以上同じ事業者を使い続ける
総務省が、光回線をはじめとする固定通信市場の競争促進に力を注ぐ姿勢を鮮明にしている。利用者を過度に囲い込む事例があるなどと指摘し、有識者会議の今後の論点として示した。通信業界の競争環境をめぐっては、2019年10月施行の改正電気通信事業法で携帯端末代金と通信料の完全分離が義務付けられるなど、直近は主にモバイル市場が話題とされてきた。議論が固定市場に“飛び火”したとも言える状況で、着地点に注目が集まる。(斎藤弘和)
「(消費者が従来使ってきた商材から他社の商材に乗り換える際に発生する)スイッチングコストが利用者の自由なサービス選択を妨げていないか」―。総務省は26日に開いた第2回「競争ルールの検証に関するワーキンググループ(WG)」で、固定通信市場の競争環境について、こうした論点を挙げた。
例えば家庭用光ファイバー通信回線(FTTH)の工事費について、多くの事業者は利用者が契約を解除した際に分割払いの残債を一括して支払うことを求めており、スイッチングコストの一つになり得ると指摘。分割支払期間が長期にわたる場合のみ工事費が無料になるなど、実質的に選択肢が限られる事例については「過度な囲い込みにつながるのでは」と問題提起した。
総務省はこの論理を補強するデータも示している。19年度にアンケートで固定通信サービスの継続利用年数を調べた際、10年以上同じ事業者の商材を使い続けている人の割合が33・2%を記録。乗り換えない理由としては「変更するための事務作業が面倒くさいから」が最多だった。
WG構成員を務める野村総合研究所の北俊一パートナーは、総務省の提示する論点に異議はないとした上で「強烈な既視感を感じる。モバイル市場で言うと14年くらいの状況ではないか」と分析。固定通信市場では現在も高額の現金を還元する販売促進策が横行している現状も踏まえ、公正な競争環境の確保は相対的に遅れているとの認識を示した。
ただ、FTTHでは通信事業者が利用者の宅内に光ケーブルを引き込む作業にコストを要するのも事実。「工事費をどうするかは大きい。携帯の時と違った事情が何なのかを、きっちり見ていく必要がある」(新美育文・明治大学名誉教授)。
総務省は第4回以降のWGで、固定通信の工事費や期間拘束契約の状況に関するヒアリングを各事業者に対して行う予定。通信各社は改正電気通信事業法の施行などに伴って携帯通信料や端末販売の収益が圧迫され、NTTドコモは20年3月期連結決算で営業減益となった。固定通信の既存顧客の流出リスクが高まりかねない状況は、各社の新たな悩みの種になりそうだ。