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採用ゼロでも意味がある。川崎重工が事業アイデアを募集する新制度

採用ゼロでも意味がある。川崎重工が事業アイデアを募集する新制度

若手を中心に事業アイデアを持ち寄る。最初は思いつきでも、説得力ある提案に練り上げていく作業に意味がある(イメージ)

川崎重工業が全社員を対象に公募を始めた「ビジネスアイディア創出制度」で、3月25日の受け付け開始からの提案件数が60件強に達した。同制度は「カワる、サキへ。」をスローガンに掲げる金花芳則社長肝いりのプロジェクト。主に若い社員らを対象に現有ビジネスの枠にとらわれない新事業アイデアを募集、活性化につなげる狙いだ。重工メーカーは潜在技術力はあるものの歩みが遅いとされるだけに、新制度が社内の意識改革にもつながるか期待がかかる。(取材=編集委員・嶋田歩)

「ビジネスアイディア創出制度」では、社員が思いついたアイデアを、マーケット視点からまず検証。「潜在的市場がありそうだ」と判断した場合、次は具体的なベンチャーや共同企業体(JV)設立を想定し、事業化の判断を行う。OKとなれば実際のベンチャーやJV設立へ向け、本社からサポートを行う。

川重の事業は、造船や鉄道車両、2輪車、ロボット、航空宇宙、エネルギー・環境などと多岐にわたる。それぞれの事業でカンパニー制を敷いているため、事業組織を越えたアイデアが生まれにくい。

同創出制度ではこの弊害に着目。ロボットと2輪車といった複数事業にまたがる提案をはじめ、ITや医療ビジネスなど市場成長が見込める提案も進んで受け付ける考えだ。アイデア審査では事務局の企画本部によるスクリーニングに加え、起業家や大学など外部有識者の目も積極活用する。

「事業をまたいだ提案に加え、所属する部門にとらわれない提案も多く寄せられている」。野田真企画本部イノベーション部長はこう語る。本社部門による支援が決まれば事業開発・事業化推進の予算化になるが、そのことが最終目的ではないという。

「仮に300件アイデアが出て、採用がゼロでも十分意味がある」と野田部長は強調。「事業を提案するには思いつきだけでない、外部を説得するための緻密なデータ作業が必要で、若手の育成につながる」と期待を寄せる。

日刊工業新聞2020年5月18日

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