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木材と人の共生をサポート、「木のミュージアム」に込められた思い

観光地で有名な富山県高岡市で乃村工藝社が手がけたリノベーション事業が、空間デザインに関する著名な顕彰制度で2018年に複数の賞を受賞した。キーワードは「木のミュージアム」だ。

この事業は、木造建築物向け構造材の切断・加工を行うプレカット工場の2階の跡地をリノベーションしたプロジェクト。木を取り扱う会社としての特性を生かすため、木質系素材を全面的に採用した。また、新しい木の見せ方を空間に施すことで、職人の新たな知財を増やしている。

木へのこだわりは会社のアイデンティティーというだけでなく、視覚的な温かさや癒やし効果の訴求を意味する。デザイナーの越膳(えちぜん)博明氏は「人が共に歩んでいく森林」「人が生活するための木材」「人が豊かに過ごせる木空間」をコンセプトに掲げた。

オフィス部は受付に相当するレセプションとライブラリーラウンジ、ショールームに生まれ変わり、17年に開設。木材と人の共生をサポートする場として注目されている。施設はミュージアムのような演出を施し、レセプションは社員や会社を訪問した人が奥行きのある空間を実感できるようにし、ライブラリーにはテーブルと照明を設置。食卓を照らす明かりがあれば自然とだんらんが生まれ会話が弾むため、同様の環境をオフィスで再現すれば、利用者の潜在的なアイデアなどを引き出せないかと考えた。

幅が20メートルほどにも及ぶ書棚は圧倒的な存在感を誇っており、それを眺めながら木に関するヒントを探し出せるようなスペースとした。ショールームはメッシュ型の素材を採用したプレゼンテーションスペースとなった。手仕事や技術をビジュアル化することで、木材を使った「モノづくり」だけではなく、住まうことに関連した「コトづくり」が誕生するような拠点を具現化した。顧客からは「木の香りや質感など、商品(モノ)ではない話題が増えた」といった声が寄せられている。

ヒト・モノ・コトが土台になり、住宅会社の現場スタッフだけではなく、経営層や設計士、プランナーの来客が増えた。高岡市は林業が盛んな土地としても知られている。その特性も十分に生かしたデザイン戦略だ。

(文=秋山浩一郎・デロイトトーマツベンチャーサポート第4ユニット)
日刊工業新聞2020年5月15日

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