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三井住友海上火災で進む働き方改革はアフターコロナにつながるか

カギを握る『DX』と『心理的安全性』

DX加速、業務抜本改革

三井住友海上火災保険は2020年度に「働き方改革ステージ2」に移行した。16年10月に始まったステージ1では長時間労働の是正や在宅勤務など柔軟な働き方を試行、総労働時間の10%減少を実現するなど一定の成果を得られた。20年度は取り組みのギアを一段上げて、「時間あたり成果の最大化」をさらに追求していく。(増重直樹)

社員の意識改革が進んだことが次の段階に移る背景にある。特に原則19時前までの退社ルールや、自身の退社時間を周囲に宣言するカードの使用などの取り組みで“時間”を強く意識した働き方が定着した。組織全体でも非効率な業務やムダの見直しを実施。生産性やワークライフバランスに関する社員意識調査のスコアは、年を重ねるごとに上昇した。

人事部企画チーム兼働き方改革推進チームの荒木裕也課長は「働き方改革はダイバーシティー&インクルージョンを実現するための手段」と話す。働き方改革の進度に呼応するかのように、保険料収入のトップラインも順調に増加。歩んでいる方向が間違いでないことを裏付け、社員の自信にもつながった。

ステージ2では「多様な社員全員が成長し、活躍する会社」の実現を目指している。そのカギに挙げるのがデジタル・トランスフォーメーション(DX)だ。属人的だと思われていた業務に先進技術を活用することで、業務プロセスを抜本的に変える考えがある。すでに同社は商品や約款に関する代理店からの照会業務に人工知能(AI)システムを導入するなどDX化を進めている。

また組織力の強化に向けては、強固なチームワークやイノベーション創出に重要とされる「心理的安全性」の確保を継続して実施する。心理的安全性とは他者の顔色を強く意識しすぎることなく気兼ねなく言動できる状態を指し、同社では働き方改革の一環で19年度にスタートした。

「職場ごとに程度の濃淡はあるが、言葉や目的が浸透して建設的な意見交換が自然とできるような状況になり始めた」と、手応えをつかんでいる。新しい取り組みや働き方を試行する際は研修などを通じマネジメント層の理解を深めている。

柔軟な働き方の観点では、社員1万9000人に社外でも社内と同様のセキュリティーを担保できるシンクライアント端末を配備している。新型コロナウイルス感染症に対しても、不要不急の業務プロセスを見直すなど速やかに出社人数を2―3割まで減らす運営体制を構築した。

在宅勤務経験者は増えていたが、この規模の実践は初めて。この経験を一過性にしないために全社員が対象のアンケートを実施している。在宅勤務で工夫したことや、ペーパーレス化など顕在化した課題を自由回答の形式で収集。その結果を集約してデータサイエンティストが分析する。

「感染収束後のアフターコロナの働き方を示す上で気付きを与えてくれる」と期待。有事の経験も糧に業務効率化を推進する。

コミュニケーションカードで心理的安全性の確保に取り組む

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