ニュースイッチ

「男子より女子の方が優秀だね」は本当か…理系人材の分析結果で見えてきた実像

「男子より女子の方が優秀だね」は本当か…理系人材の分析結果で見えてきた実像

女子生徒の積極性が目立つ(創造性教育の成果発表会、東大生研提供)

女性活躍の各種指標が他国より低い日本。科学技術は多様性によるイノベーションが重要と言われ、なおさら問題だ。ただ近年は「男子より女子が元気で優秀」との声もよく聞く。都市部と地域の差もある。「リケジョ」、つまり理系の学びをする女子を、小中高校生の段階から増やす活動と効果を振り返る。(取材=編集委員・山本佳世子)

小中高向けイベント 魅力発信、進路後押し

内閣府男女共同参画局は、小中高の女子児童・生徒に理系の進路選択を促す活動を幅広く手がけている。2019年度は委託調査で「地域における理工系女性人材育成事業の効果的な実施方法に関する調査研究」を実施。長崎市や千葉県木更津市など10の地方都市の自治体に、小中高の女子向けのリケジョ後押しイベントを開催してもらって分析した。

その結果、「イベントを教育委員会へ説明し、学校に依頼してもらうと広報効果が高い」「実験教室や事例紹介で地元企業に協力してもらうには、自治体の商工部門や地元経済団体との連携が有効」といったノウハウを収集できた。「運動会などの行事と重ならないように」も注意点だ。

実験教室では「地域の課題や歴史を活用し、地元の大学や企業の認識を高められると好ましい」「実験の助手を若手女性が行うと、身近なロールモデルとしてコミュニケーションする機会になる」など、企画する上で意識すべきポイントが明らかになった。

東京都市大学のダイバーシティ推進室も、リケジョ育成の活動で地方都市に注目している。教育委員会と組んで地元企業の研究開発現場を見せ、小学校での工場見学とは異なる、メーカーの技術職のイメージを伝えようとしている。自治体には将来のリケジョ地元就職への期待もある。

東京都日野市の日野自動車での女子中学生向けイベントに続き、工業地帯の機器メーカーで開催を検討中だ。白木尚人室長・教授は「進路決定に影響力がある親にも参加してもらうと効果的だ」と考える。同大の卒業生や教員など“先輩リケジョ”のネットワーク活用も重要だとしている。

プレゼンで強さ発揮 生命科学の発展が追い風

科学技術振興機構(JST)は高校生を中心とした次世代人材育成事業の分析をする中で、ユニークな傾向を見つけた。プレゼンテーションが重視される研究発表会における女子の強さだ。

理数教育に優れた各高校が指定校となるスーパー・サイエンス・ハイスクール(SSH)では、18年のSSH生徒研究発表会の女子比率が、参加者全体では37%だが、最終6校の選抜者になると50%になる。さらに最後の文部科学大臣賞受賞者はなんと100%だった。

志望を絞り込む前の中学生を狙う(日野自動車でのイベント、東京都市大提供)

高校生が大学の研究入門編を体験するグローバル・サイエンス・キャンプ(GSC)も同様だ。17年の発表会で全体の女子比率は48%なのに、受賞者は77%。19年は受賞者の82%を占めた。

しかし経済協力開発機構(OECD)の15歳対象の数学テストの点数は各国と同様、男子が女子を上回る。理数系各教科をトップクラスの高校生が競う「科学オリンピック」出場も男子が圧倒的。国内受賞者の女子比率は10%を下回る。理数系のテストや実験は男子が、プレゼンテーションが重要な場面は女子がそれぞれ得意なようだ。JSTの渡辺美代子副理事は「社会ではテストの点より、説明能力が重要なケースが多々ある。女子の理系進路の後押しに、面接の比重が高い入試を設ける策がありうるのではないか」とみる。

東京大学生産技術研究所の次世代育成オフィス(ONG)は中高生向け理数教育を、東京メトロや日本航空などと連携して手がけている。大島まり室長・教授は「中学生までは積極性に男女差がないが、高校生になると変わる」と指摘する。皆の前で口火を切るのは女子なのだという。

女子が進路に好む生命科学分野の発展も、リケジョに追い風だ。「理系の進路を選ぶ上で、苦手となりがちな数学や物理の成績が、決定的でなくなっている」(大島室長)からだ。さらに環境やデザインなど境界領域が、社会で重要性を増していることも、リケジョ後押しにつながりそうだ。

Data/学び積極化、低年齢ほど効果

内閣府の19年度調査研究で、イベントに参加した女子児童・生徒に「参加で学習に関する考え方や行動が変わったか」を尋ねると、「変わった点がある」と答えたのは小学生の43%、中学生の38%、高校生の15%だった。回答は各20―33人と限定されるが、理工系に向けた学びを積極化させるには低年齢ほど効果がある。イベント参加の高校生はすでに、理工系進路を固めている背景もあるとみられる。

イベントの中で効果的だったプログラムは児童・生徒の年齢により変わる。典型的なのは、理工系分野で活躍する女性研究者らによる「基調講演」だ。5段階評価で最上位の「関心を持った」のは小学生の32%、中学生の44%、高校生の66%。「やや関心を持った」と合わせると高校生では96%となった。

一方、年齢によらず人気なのが実験教室だ。「関心を持った」のは小学生の75%、中学生の78%、高校生の65%だった。そのため内閣府は、主な来場者が高校生なら基調講演、小学生なら実験教室に力点を置くことが有効と判断。「実験教室で理工系への関心を高めてもらい、進路を固めた後はロールモデルを紹介する」という手法が、どの地域のイベントでも定番になってきそうだ。

【キーワード/実験教室】

科学技術への関心を高め、理系の進路選択を後押しする活動のうち、年齢を問わず人気なのが実験教室だ。児童・生徒が自ら手を動かして実験に取り組む。結果を明確に捉え、実験前後の解説などの理解を深める流れで、科学技術の魅力を実感できる。大学、企業やシニア技術者らの自主活動、科学館、さらに最近は学習塾でも実施している。

内閣府事業で人気のテーマは、デオキシリボ核酸(DNA)の抽出・分析による食肉の種類判別(かずさDNA研究所)、近隣の渡良瀬川の土に含まれる銅の含有量分析(群馬大学)だった。

日刊工業新聞2020年5月1日
山本佳世子
山本佳世子 Yamamoto Kayoko 編集局科学技術部 論説委員兼編集委員
「女子の方が男子より優秀だね」という言葉をしばしば、耳にするが、果たして本当のところは?と以前から気になっていた。これに対してJSTによる理系男女の分析値とその解釈は、「ペーパーテストと実験なら男子が強く、プレゼンテーションやコミュニケーションは女子が強い」という、非常に合点のいくものだった。

編集部のおすすめ