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《ソニー編》ザ・インタビュー#1 話題の「FES Watch」は変革への狼煙

プロジェクトリーダー・杉上雄紀氏が語る誕生秘話「アイデアのネタ帳はパワポ300ページになった」
 ソニーの新規事業プロジェクトから生まれた話題の「FES Watch(フェスウォッチ)」。メディアではソニーの凋落が叫ばれて久しいが、まだまだ新しいモノを生み出す人材も技術も、エネルギーも残っている。従来の社内プロセスからは絶対に世に出ることはなかったFES Watchはなぜ誕生したのか。大企業イノベーションの3回目は、FES Watchのプロジェクトリーダーを務める杉上雄紀さん。3回に渡り紹介する。

 ー杉上さんは2008年の入社ですよね。ソニーに憧れを抱く世代でもないと思うのですが、なぜソニーに入ろうと。
 「まず、すごい個人的な話になってしまうんですけど、20歳の時に崖から落ちて9割即死という経験をしたんです。奇跡的に助かったんですが、今も膝とかに傷があります。せっかく生きているのだから、何か世の中に恩返しできることをしたいと思ったんです。医療とか福祉、環境とかも考えました。もともとエンターテイメントが好きで、入院していた時も『エンタメは大事だな~』と思ったり。新しく面白いことができるエンターテイメント、しかもモノづくりの会社ということでソニーに入りました。完全に第一志望です」

 新しく面白いものを作りたい!もはやテレビと呼べないようなものも考えた

 ー最初はテレビ事業部の配属ですね。ソニーのテレビ事業はずっと構造改革をやっていて、ポジティブに仕事はできましたか。
 「たしかにテレビは業績が悪かったこともあって、何か変えないといけない、何か新しいことにチャレンジしないと、という雰囲気はありました。そういう意味でテレビは自分によい部署だったのかもしれない。最初にソニーに入る時、やっぱり新しくて面白い何かを自分で考えて、世に出すことをやりたいなと思っていて、いつかは自分で考えることをやりたいけども、まずはどうやってつくるかをちゃんと学びたいと」

 「大学ではナノテクノロジーの研究をしていたんですけど、ソフトウエアの方がいろいろアイデアを形にしやすいと思って、ソフトウエアに関係する仕事を希望しました。テレビの配属になって、新しいアプリケーションを作る部署に入ったんです。『グーグルテレビ』でアンドロイドと組んだり、スマホとテレビをつなぐアプリの仕事もしていましたね」

 ーソニーに限ったことではないですが大手企業になればなるほど、新しいことが実現しにくい社内システムや風土があります。例えばテレビをどのように変えたいと。
 「結構いろいろ考えましたよ。まったく違うビジネスモデルで、もはやテレビとは呼べないようなものとか。それはあくまでアイデアベースで発展していったわけではありません」

 「新人だった時にピュアに飲み会で事業本部長に話したりとか。アイデアを持っている社員はいっぱいて、考えられるし作ることもできるし、提案もできる。それが通るか通らないかはまた別問題です。ソニー以外で働いたことはないので、他社のことは分からないですけど、世の中、提案が全て受け入れられるわけでもないと思うので。テレビの部署に対しそんなにネガティブな感情をもったことはなかったですね」

 ゲームショーとガールズコレクションが結びつけたファッションのデジタル化

 ーFES Watchのアイデアはどのタイミングで思いついたんですか。
 「中学生のころから、思いついたアイデアをずっとネタ帳に書いていました。ソニーに入ってからはパワポになり、自分のアイデアだけでなく、面白いと思った技術やアイデアをアレンジしたものも含めて300ページくらいになりました。FES Watchに繋がるアイデアを思い付いたのは、2012年の東京ゲームショーを見に行ったことがきっかけでした」

 「一般のお客さんもすごく入っていてとても盛り上がっていた。そしてどのブースもビデオゲーム。何十年も前はトランプとかボードゲームとかもっとアナログだったんだろうな、とか思いながら。そこでゲームのデジタル化の波を一気に感じたんです」

 「帰り道にこれくらい人が集まる分野で、まだデジタルの要素が少ない業界があれば、今後、デジタル化されたら凄いことになると。でもその時はすぐに浮かばなかった。翌日、テレビのニュースで東京ガールズコレクションの映像を見て、『あ!ファッション業界は、女の子たちが集まってキャーキャーしているけど、デジタルの要素がないからすごく可能性があると感じたんです」

本田知行
本田知行 Honda Tomoyuki バカン
 新規事業における原体験の重要性。インタビューを通じて杉上さんに抱いた印象は、そのパワフルさでした。FES Watchを事業として進めるために、社内の決裁をとるために、平井社長に突撃し、エレベーターピッチで面談の時間を確保する下りです。皆さんもなぜ、なぜこんなにも推進力があるのかと感じたのではないでしょうか。  それは原体験にあるのではないでしょうか。我々もイノベーションについて調査や相談をいただくことがありますが、社内イノベーターの多くは原体験を持っています。杉上氏が危篤状態に陥った時に、人生を振り返って”エンターテイメント”で恩返しがしたい!と思ったという原体験があったからこそ、先延ばしにせず諦めず、事業遂行のためにアクセルを全力で踏めるのではないでしょうか。  我々も、社内で原体験ワークショップを行い、各人が本当にやりたいことは何か?を相互理解するようにしています。

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