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震災で流されたエンジンを教材に!

ANAとIHIが仙台で復旧ボランティア
震災で流されたエンジンを教材に!

高圧洗浄機でエンジン内の土砂やゴミを洗浄する整備士

 航空機の整備士を目指す学生に、ジェットエンジンの構造を知ってもらおうと、東日本大震災で津波により流されて廃棄処分となったエンジンを洗浄し、分解する作業が連休前の9月18日、仙台空港近くの東日本航空専門学校で行われた。整備士や地上支援(グランドハンドリング)係員、空港旅客係員(グランドスタッフ)を目指す約80人が見学した。

 震災で流されて海水に浸かったエンジンは、仙台空港を拠点とするアイベックスエアラインズ(IBX)保有の新品。ボンバルディアCRJ700用の米GE製CF34-8C1で、廃棄処分にするならば教材として有効活用して欲しいと、アイベックスが震災直後に同校へ寄贈した。

 寄贈されたエンジンは内部に土砂がつまり、外観の一部は変形していた。エンジンの外観を見るだけではなく、中の構造を学生に見せてあげたいと、同校へ全日本空輸(ANA/NH)から出向している教員から、ANAグループに相談があった。

 相談を受けたANAでは、100%出資のグループ会社でエンジン整備を担うANAエンジンテクニクスが中心となり、CF34のオーバーホールを手掛けるIHIに協力を呼びかけ、2社協同で東京からスタッフを派遣し、復旧作業をボランティアで実施することを決めた。

 作業はANAエンジンテクニクスに所属する同校OBの整備士が中心となり、17日から現地で準備を始め、IHIのエンジニア3人を含む15人掛かりで2日間かけて実施。18日は空気高圧圧縮部のHPC(高圧コンプレッサー)のケースを格納庫内にあるクレーンを使って外し、タービンエンジン内部のコンプレッサー・ブレード(動翼)やベーン(静翼)が見える状態にし、エンジン内につまった土砂を高圧洗浄機で洗い流した後、手作業で細かい部分に残ったものをかき出した。

 洗浄を終えてエンジン下のギアボックスのケースを外すと、海水に浸ってさび付いたギアが現れ、学生たちは興味深げに内部構造に見入っていた。18日は作業を終えるまでに2時間弱の時間がかかった。

 同校3期生でANAエンジンテクニクスの整備士、大原正博さんは作業後「もう少し土砂がたまっているかと思っていた」と話しつつも、開けたとたんに強烈なさびのにおいがしたギアボックスについては、「開けた際、あそこまで酷いとは思わなかった」と驚いていた。後輩たちには「ジェットエンジンに興味を持って、内側を見て欲しい」と期待を寄せた。

 IHIの瑞穂工場(東京都西多摩郡瑞穂町)でCF34のオーバーホールを担当している細越宏和さんは、「思ったよりもきれいだった」と感想を述べた。もしエンジンを再度動かせる状態に修復する機会があれば、参加したいという。

 同校3年生で卒業を控えた本間優太さんは、「身近に良い教材が出来てうれしい。教科書ではわからないことも勉強できる」と喜んでいた。

 CF34はGEが中心に開発や設計、製造するリージョナルジェット向けエンジン。IHIは整備のほか、エンジン全体の30%に相当する低圧タービンモジュールと高圧コンプレッサー後段部分、シャフトの製造を担当している。70人から100人乗りクラスの機体向けに開発されたCF34-8は、2001年から商業運航へ投入。CRJ700のほかにCRJ900やCRJ1000、エンブラエル170(E170)と175(E175)が搭載する。推力は1万4500ポンド。
吉川忠行
吉川忠行 Yoshikawa Tadayuki Aviation Wire 編集長
東日本大震災による津波で流されたエンジンを、ANAの整備士とIHIのエンジニアがボランティアで復旧作業。仙台空港を拠点とするアイベックスエアラインズが、地元の専門学校へ寄贈したもので、復旧作業により内部構造を学べるようにしました。

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