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東日本大震災から9年…防災・減災技術はどこまで進化したか

東日本大震災から9年…防災・減災技術はどこまで進化したか

東日本大震災で大きな被害を受けた石巻市

甚大な被害をもたらした東日本大震災の発生から9年。複数の地震が連動し地震の規模を表すマグニチュード(M)9・0の巨大な地震が発生。15メートルを超える津波が発生し、多くの人命を奪った。こうした教訓を基に次に来る大地震に対し研究が行われている。科学技術を活用した防災・減災対策への取り組みが進む。(取材・冨井哲雄)

【23年度に整備】

今後30年以内に70―80%の確率で巨大地震をもたらすと考えられている「南海トラフ地震」。この巨大地震への国民の関心は高い。

防災科学技術研究所は陸海統合地震津波火山観測網「MOWLAS(モウラス)」を運用し、地震や津波の観測を行っている。だがモウラスは海の観測が不十分で南海トラフ地震の想定震源域の西半分は空白になっている。そこで防災科研では高知県沖から日向灘にかけた南海トラフ海底地震・津波観測網「N―net」を2023年度までの5年間で整備を進めている。現在に比べ津波を最大20分、地震を20秒早く検知できるとされ、地震と津波のリアルタイム観測を目指す。

【津波高を計算】

近年、南海トラフ地震に関し多くのことが分かってきた。研究者らが共通して挙げるのが南海トラフ地震の多様性だ。東京大学地震研究所の古村孝志教授は「地震のエネルギーはたまっているが、どこから地震が起きるか分からない。可能性のあるシナリオを立て、揺れを予測する必要がある」と強調する。

多くの研究成果を基に、政府の地震調査委員会(平田直委員長=東大地震研教授)は1月、南海トラフで今後30年以内にM7・6―9・0の大地震が発生した際の津波の地域ごとの発生確率を公表した。一口に南海トラフ地震と言っても、震源の候補となる領域は広く、多くのパターンが想定される。震源の領域や震源域内でのプレートのすべる量の違いなどから35万ケースの津波高を計算し、津波高の計算結果を評価地点ごとに重ね合わせることで、評価地点での確率を示した。今後「南海トラフだけでなく、他の震源に由来する巨大地震の津波の発生確率も評価したい」(文部科学省)考えだ。

【都市開発指針に】

こうした結果を受けて防災科研は2月、津波の発生確率情報を提供するシステムの運用を開始。こうした情報の公開は都市開発の指針になるかもしれない。考えられる用途は老朽化したインフラを整備する際の優先順位付けや保険の算出などだ。防災科研マルチハザードリスク評価研究部門の藤原広行部門長は「より踏み込んだ防災対策につなげられるのではないか」と語っている。

南海トラフに関する研究から多くのことが分かってきた。地震や津波を正しく評価することで、防災・減災に関し効率的な取り組みが進むと期待される。

日刊工業新聞2020年3月11日

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