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10年後には「高齢者の5人に1人が認知症」という時代へ

今日は世界アルツハイマーデー。日本でも喫緊の課題に
 毎年9月21日は、国際アルツハイマー病協会(ADI)が定める「世界アルツハイマーデー」。同協会のレポート「The Global Impact of Dementia」によれば、世界の認知症患者の数は急速に拡大しており、2050年には、現在の約3倍、1億3,200万人に達する可能性があるとのこと。では、日本の状況はどうか。厚生労働省によれば、認知症患者数は2012年時点で462万人とされ、65歳以上の高齢者の7人に1人が認知症を抱えている。今後、団塊の世代が一斉に高齢化することで2025年にはその割合が5人に1人(730万人)に、2050年には4人に1人(1,016万人)になると推計されている。

 社会課題としての認知症

 認知症とは、介護保険法の定義によれば、「脳の器質的な変化により日常生活に支障が生じる程度にまで記憶機能及びその他の認知機能が低下した状態」の病気。現役世代にのしかかる介護負担や、高齢化が進むなかでの「老老介護」が、増え続けている。

 その発症メカニズムや症状の範囲などはっきりしていないことも多く、現時点では認知症そのものの根本治療法は確立されていない。その中核症状には記憶障害や見当識障害、理解・判断力、実行機能への障害が挙げられ、その結果、うつや不安、幻覚や妄想、徘徊や暴言・暴力などの行動として症状が表れることも大きな特徴。

 これらの症状特性から、家族や近隣住人との衝突、交通事故、金銭トラブルなど、周囲に大きな影響を与えるケースが多いことから、社会問題として捉えられつつある。また、こうしたことから生まれる認知症患者に対するスチグマ(偏見。恥辱、不名誉を与えること)が、この社会問題をより困難で複雑にしていることも否めない。

 面となって取り組む医療業界の動き

 アルツハイマー型認知症(以下、アルツハイマー病)について関心のある人は、「アミロイドβ」という言葉を聞いたことがあるかもしれない。これは脳内に蓄積する蛋白質で、アルツハイマー病の発症と深く関係していると考えられており、早ければ発症の20年も前から脳内に蓄積しはじめることが分かっている。

 また、アルツハイマー病に対する根本治療法はまだ確立されていないものの、早期に発見し対策をとることで進行を遅らせたり症状を緩和できるという見方が広がっている。そこで今、複数の製薬企業が、発症の早期段階、あるいは軽度認知障害(※MCI)という段階に投与することで、より高い治療効果を引き出す薬の開発を進めている。

 では、アルツハイマー病を早期の段階でどのように診断できるようにするのか。その方法についても企業や大学が研究を進めており、GEもその一社。GEヘルスケア・ジャパンの若槻好則氏は「脳は直接傷つけるわけにはいかないので、脳の状態を確認するための“細胞診”ができない。従来は、目に見える症状が現れるまで病気が進行して初めて認知症の存在に気付く、というのが常だった。そこで、GEはアミロイドβの蓄積状況を体外から検出できるイメージング技術の開発を進めてきた」と話す。

 この技術は、わかりやすく言えば脳内のアミロイドβに結び付く薬剤を投与してPET画像診断装置で読み取る、というもの。病期の早い段階においてもこの蓄積状況が画像として得られ、医師がアルツハイマー病の可能性を判断する強力な材料になる。GEはすでにアミロイドβの蓄積を可視化する薬剤「ビザミル」を合成する医療機器について、有効性および安全性に関する治験を経て国内薬事承認を取得、臨床の現場への導入が進んでいる。

 「いま医療業界では臨床医、製薬企業、医療機器メーカーが面となって取り組みを進めている。このPET診断技術は新しい治療薬の治験精度を高めることにも貢献していので、これにより根本治療薬の開発と導入が加速されることを願う」と若槻氏。

明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役デジタルメディア事業担当
程度にもよるが5人に1人はなかなか重い数字。少しだけポジティブに考えると、失われつつあるコミュニティを再生させるきっかけになれば。

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