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好調トヨタでアキレス腱の国内販売、「全車種併売」前倒しの危機感

新車市場、五輪後は「年400万台レベルに落ちる可能性もある」

2020年3月期連結業績予想(米国会計基準)で、営業利益を前期比1・3%増の2兆5000億円(19年11月予想比1000億円増)に上方修正したトヨタ自動車。6日に会見したディディエ・ルロワ副社長は「北米をはじめ世界中で実施している改善活動が結実した」と評価しつつ「まだ道半ばで、取り組みを続けねばならない」と強調した。国内では5月から長年の懸案だった販売4チャンネルでの「全車種併売」に踏み込む。販売が堅調に推移する今、トヨタは販売店にスピード感を持った変革を求めている。

20年にトヨタの国内販売体制は大きく変わる。5月に販売店で全ての車種を販売する全車種併売を取り入れる。これまではトヨタ店、トヨペット店、カローラ店、ネッツ店と4系列ある販売店で、それぞれ専売車種を設定していたが、その壁をなくす。ルロワ副社長は「ビジネスの改革で販売店個々の能力を高め、将来の新しい戦略を一緒に作っていきたい」と全車種併売に期待をかける。当初は22―25年をめどに始めるとしていたが、最大で5年程度前倒す。この決断の背景には、国内市場の鈍化がある。

トヨタ単体の19年の国内販売は162万台だったが、20年は156万台を計画。さらに一部サプライヤーには、21年に161万台となる見通しを伝えており、横ばいから微減傾向が明確だ。現状の国内新車市場は500万台規模だが、東京五輪・パラリンピック以降は「400万台レベルに落ちる可能性もある」(トヨタ幹部)。シェアリングやMaaS(乗り物のサービス化)の浸透で、さらなる縮小も懸念される。

トヨタは国内事業の維持には、年150万台の新車販売が必要だとしている。既存の販売台数堅持と新市場の創出での確保を目指すが、販売網の強化や効率化は避けて通れない課題だ。併売と合わせて、車種数を現状の約40から30に減らす方針も掲げる。全車種併売に踏み切ることで、販売店の競争力強化を促す。トヨタ周辺からは「競争激化は免れず、販売店の統廃合が加速する」との声が漏れる。

事実、併売に先立ち統合の動きが起きている。ATグループは、傘下のトヨタ車販売店4社を23年にも統合する検討を始めた。山口真史社長は「競争激化は避けられない。チャレンジングだが、持続的成長のためには大変重要だ」と説明する。さらにトヨタは愛知県内の直営販売店2社の株式を、地場資本のGホールディングス(名古屋市中区)に譲渡することを決めた。

新たな収益策を探る動きも出始めた。名古屋トヨペット(同熱田区)は平日に店舗を開放し、英会話教室などに活用する取り組みを実施。ネッツトヨタ神戸(兵庫県尼崎市)は、アイシン精機が手がけるオンデマンド型乗り合い送迎サービス「チョイソコ」の運用に乗り出し、サービス事業での収益化を目指す。ネッツトヨタ神戸の四宮慶太郎社長は「決して規模の大きな販売店ではないが、地域密着で存在感を示したい」と力を込める。

トヨタは自動車会社から「モビリティー・カンパニー」への変革を掲げるが、移動サービスなどリアル社会での事業を手がける上で、新車販売の維持が収益力を支える基盤の一部であることは変わらない。販売店との連携は重要テーマであり、トヨタは新サービスの開発や提案、導入しやすい仕組みの創出を加速する方針だ。

(取材=名古屋・長塚崇寛、同・政年佐貴恵)
日刊工業新聞2020年2月7日の記事から一部抜粋

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