環境問題や女性の不自由さ・・・デザインから読み解く世相
この連載がスタートしてから、半年がたった。その間にラグビーワールドカップや新天皇の即位の礼、ローマ教皇来日など数十年に一度の大きな出来事があった。そして、いよいよ東京五輪・パラリンピックまで半年を切った。
世の中で大きな出来事が起きると、それは必ずデザインに影響する。皆が何げなく接している身近にあるデザインも、世の中の価値観や社会の動きを反映して変化している。色、形、素材感には、背景にある社会性が大きく影響するからだ。
私が定点観測し、調査分析している昨年のミラノサローネで展示されたミラノのドゥオーモ前の巨大なインスタレーションは、イタリアの世界的な家具ブランドB&Bイタリア社の名作「UP(アップ)」というアームチェアをモチーフにした衝撃的なものだった。このチェアは1960年代にガエタノ・ペッシェがデザインしたのだが、当時の女性の不自由さを表現し、社会的なメッセージを発信したものだった。
最近では環境問題やサステナブルがデザインの中心的テーマになっている。私が毎年審査を行っているマレーシア国際家具見本市の若手家具デザイナーのコンペティションの審査基準においてもサステナビリティが大きく取り上げられるようになってきた。欧米のホテルでは、動物性の素材を全く使わないビーガンフリーでデザインされたホテルの部屋が登場し、注目されてきている。
また、社会的意識の高い消費者は、動物愛護や環境破壊に配慮がされたものをより利用する動きが起きてきている。罪悪を感じないギルドフリーのデザインのアプローチも増えてきている。今後は日本でも、サステナブルを意識したデザインがより増えてくるだろう。
社会的なメッセージの他にも、デザインには優れた力がある。例えば経済の落ち込みや自然災害に多く見舞われた時、人々の気持ちは沈み、世の中の雰囲気は暗くなるものだが、そうした時には明るい色がトレンドになり、人々の気持ちをハッピーにさせるデザインが出現する。デザインによって人間は自らの気持ちをコントロールすることができるのだ。デザインは人間が作り出した特別なチカラと言えよう。(見月伸一・三井デザインテック・デザインマネジメント部長)