カシオのデジカメ、いろんなカタチで再出発
【再起を図る】
カシオ計算機はデジタルカメラで培った技術を需要拡大が見込まれる領域やサービスに応用する取り組みに力を入れている。民生用デジカメ事業は2018年に撤退したが「完成品を作るだけがビジネスではない」(樫尾和宏社長)。新たな形で再起を図っている。
ターゲットの一つが美容に最新技術を取り入れたビューティーテック市場。個々の好みや体質に合わせてパーソナライズ化されたサービス・製品の需要が高まっている中で、デジカメの美顔機能などで培った画像認識や画像処理の技術が生かせると見込んだ。
そこで、化粧品大手のコーセーと組んでネイルプリンターを共同開発。四角い機械の中に指を差し込むと内部にあるカメラが爪の形を読み取り、スマートフォンのアプリケーション(応用ソフト)で選んだデザインを爪の上に印刷する。印刷にかかる時間は1本につき15秒程度で、誰でも簡単かつ手軽に高品質なネイルを楽しめる。
最大の強みは、高精細なデザインでも爪の端までゆがまず、印刷できること。印刷にはデジカメやプリンターの技術を活用した。爪の輪郭を認識したり湾曲を補正したりする独自技術は1000個以上の爪の形を学習して開発。「ネイルプリンターが世界初の技術でないからこそ印刷の品質にこだわった」(カシオ計算機・事業開発センター新規事業プロジェクト担当の井口敏之執行役員)。
【社会変化に商機】
ネイルプリンターは19年12月からコーセーのコンセプトストア「メゾンコーセー」(東京都中央区)に設置して、事業化に向けた実証実験を進めている。化粧品売り場やネイルサロンへの導入や一般消費者向けの販売などさまざまな展開を検討しているが、特に注目しているのがイベント会場や観光施設などへの導入だという。
近年は体験に価値を見いだす「コト消費」の拡大がめざましい。井口執行役員は「爪はお気に入りのブランドやコンテンツ、価値観を表現する“発信メディア”にもなる」とした上で「新開発のネイルプリンターであればさまざまな場面でTPO(時間、場所、場合)に合わせたネイル体験を提供できる」と力を込める。
デジカメ技術の活用先は美容向けにとどまらない。同じコト消費を意識したサービスとして、テーマパーク内の固定カメラをスマホで遠隔操作して自撮りができる「マチカメ」の事業化もKDDIと目指している。デジカメ市場はスマホの普及で縮小したが、会員制交流サイト(SNS)の普及で撮影の機会はかえって大幅に増加。撮影ノウハウの提供で消費者の需要に応える。
【技術+需要】
BツーB(企業間)向けでは、画像診断の重要性が高まっている医療分野に大学と共同開発した専用カメラや画像管理ソフトウエアを投入。設置数が増えている監視カメラや産業用ロボットを意識して、イメージングモジュールの開発も進めている。樫尾社長は「今までの姿は『いい商品を作って売る』だったが、いい技術と需要を結びつけることが重要だ」と、従来との違いを語る。(国広伽奈子)