市場停滞の2020年…建機トップたちが考える生き残りへの道
2020年の建設機械業界は厳しい1年となりそうだ。都市部の再開発や住宅投資などで先進国市場は引き続き底堅いものの、経済成長が見込まれていた新興国市場では需要の伸びが鈍化。特に19年に選挙があったインドネシアやフィリピン、インドなどで需要が落ち込み、選挙後の需要の回復が想定よりも遅れている。市場の停滞が予想される20年を、建機各社はどう切り拓いていくのか。主要企業のトップに聞いた。(取材=編集委員・松沢紗枝)
マイニング外資牙城崩す コマツ社長・小川啓之氏
―20年に建設機械の稼働管理システム「コムトラックス」を刷新します。
「市場投入から約20年がたった。データ処理や蓄積量など大幅に機能が改善した。現システムは1日1回稼働状況を把握するが、最新版ではほぼリアルタイムに把握できる。これにより部品の耐久性などが正確に分かり、故障予防や省エネルギー運転など顧客への提案の幅が広がる。応用プログラムインターフェース(API)で、カスタマイズもできる。最新版に対応した建機側のコントローラーは既に搭載している」
―ミニショベルの需要は安定しています。
「先進国でのニーズは依然高い。19年には使いやすさやデザインなどにこだわった新モデルを投入した。課題の一つである電動化にもミニショベルで挑戦している。3トンクラスは20年度内に投入する。だが、まだモデルチェンジをする必要がある。より軽量なバッテリーを使いたい」
―比較的に鉱山投資が堅調に見えます。
「マイニング事業はこれまでインドネシアの石炭鉱山向けに依存する部分があったが、今後は銅やニッケルなどハードロック鉱山向けを強化する。従来の露天掘りから坑内掘りに移行する傾向がある。そこが当社のチャンスとなる。『発破レス』『連続掘削』『NOディーゼル』の三つをキーワードに開発を進めて画期的な機械を投入していきたい」
―マイニング事業強化のため、17年に買収した米社との関係は。
「米コマツマイニング(KMC、旧ジョイ・グローバル)との生産や調達、販売、開発などで相乗効果が出てきた。当社の部品を搭載した坑内掘り機械も投入する。同分野で先行する外資系2社の牙城を崩し、ビジネスを拡大していきたい」
ダンプ伸ばし収益拡大 日立建機社長・平野耕太郎氏
―国内生産拠点の再編を進めています。
「17、18年と建設機械の需要が高く生産能力を上げた。その影響で再編時期を先に延ばしている。土浦工場(茨城県土浦市)で生産していた40―80トン以上の大型油圧ショベルを常陸那珂臨港工場(同ひたちなか市)に移すなど完了している部分もあるが、一部の工程では2年ほど遅れている部分もある」
―親会社の日立製作所で事業再編が進んでいます。
「日立が軸とするIoT(モノのインターネット)共通基盤『ルマーダ』に対する当社が占めるポジションは大きい。工事現場の業務を支援する情報通信技術(ICT)サービスはルマーダを活用している。同サービスと部品の売り上げは約2000億円。ルマーダの原動力と言えるデータ量に対しても貢献している。日立グループ内で機械15万台分のデータを保有しているという会社はない。これらの部分は日立には評価されているはずだ」
―20年度は新中期経営計画が始まります。
「営業利益率2ケタを目指していく。国内最大手のコマツと当社との違いはダンプトラックの販売量だ。ダンプの売り上げを伸ばすのが課題の一つ。過酷な環境で使われるダンプは部品販売で長期的なビジネスにもつながる。今春には無人ダンプトラック運行システム(AHS)を商用化する」
―20年は創立50周年と節目の年でもあります。
「当社の役割は、日立の経営目標に対して貢献すること。18年度には、売上高1兆円超となり存在感を示せた。この3年間で利益を出せる体質になってきた。国内生産拠点の再編をやり遂げ、2ケタの営業利益率を達成し、さらに貢献度を高めていきたい」
ICT活用、保守迅速化 コベルコ建機社長・楢木一秀氏
―20年に取り組む施策は。
「グローバルでアフターサービス事業を強化していく。新品の建設機械販売だけでなく、レンタルや中古販売、保守・メンテナンス、作業員の育成など建機のライフサイクルを一元的にカバーする体制を整える」
―サービスをどう拡大しますか。
「中国では19年前半から、自社で管理していない自社製の中古建機もメンテナンスの対象とした。現地の販売代理店からアフターサービスに注力している代理店を選定し、街中で自社製中古建機を見かけたら営業するように促している。また、建機に搭載する全地球測位システム(GPS)などで収集したデータを活用し予防保全につなげる。情報通信技術(ICT)を使って、アフターサービスをよりタイムリーに提供していく」
―ICT活用が進んでいますね。
「20年は本格的なICT改革の始まりの年としたい。現在、取り組んでいる工場の自動化や基幹システムは社内で完結しているが、より事業にICTを生かしていくかに注力する。例えば、建機の需要動向をデータを活用して予測できるようにするなどだ。どのような業務をICT化できるか、棚卸しをしているところだ」
―顧客にとってICT化の利点は。
「安全で効率的な作業をするには、建機の遠隔操作や完全自動化が最適な方法だ。また日本のような人手不足という課題の解決にも有効な手段となる。だが、ICTだけがツールではない。もっと広い視野で、顧客に本当に必要なものを提供したい。北欧や豪州は環境やニーズが合致し、ICT施工が進んだ。他の国でも同様に進むのか、状況を見極めていきたい」