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「シルバー民主主義」時代、政治家に求められる社会問題のコーディネート力

「シルバー民主主義」時代、政治家に求められる社会問題のコーディネート力

今年8月に日本で開催されたアフリカ開発会議、安倍首相は「国の力は人にあり」と発言

2019年はどんな1年だっただろうか。象徴的なニュースが3つある。

●アジア・欧米 9カ国の18歳同時意識調査
●共通テスト記述式、見送り
●出生数、初の90万人割れ

それぞれのニュースを要約する。18歳意識調査では日本の若者が他国の若者に比べて、「自国の未来は暗い」「興味のある社会課題がない」「自分は国や社会を変えられないし、その責任もない。そして自分も夢は持ってない」と強く思っていることだ。

共通テストの記述式導入は、マークシートだけでなく論述もテストに入れることで思考や表現する力を育てることが狙いだった。人工知能(AI)や第5世代通信(5G)の時代に、人間だからこそ発揮できる能力を伸ばそうという狙いは評価されるが、テストの採点をどうするのかで議論が大きく割れた。

マークシートであれば機械に入れれば自動的に採点されるが、記述式を採点するには評価基準を作ることと、“コスト”が発生する。評価基準は全員が納得するものでなくても一定のものは作れるだろうが、今回問題になったのは“コスト”を誰が負担するかだった。施策の段取りの悪さに加え、将来を担う若者の教育に国家としてコスト負担が出来ないのは悲劇である。

次に出生数が86万4千人に急減というニュース。2017年に国立社会保障・人口問題研究所が出した予測では86万人台は2021年の予想だったが、2年も前倒しになった。10年前の予測ではなく、2年前に立てたものだ。

この3つのニュースから導かれる現実は、もはや日本は子育てにも、教育にも公金から投資ができない国になったことを示している。そんな国が育てあげた若者は夢や希望を持てず、問題意識と気力が希薄で、しかもそんな若者ですらものすごい勢いで減っているのだ。

「国民主権国家の存続」というテーマは非常に大きい。資源を持たない国家である以上、資源は人であり、その人の才能を最大限発揮させる教育は最も重視すべき政策なはずだ。しかし、実際は年々増え続ける社会保障(ほとんどを75歳以上が使う)に対して無条件に予算が割かれ、そのツケが若者や子育て世代に回されている。国家の存亡に関わる問題に政治や行政が本気で取り組めない背景には、「高齢者の意見が反映されやすい選挙制度(シルバー民主主義)」と「国民共通の社会問題の消滅」の2つが挙げられる。

昔は国民共通の社会問題があった。戦後間もない時期は、国民の飢えを解消することが最優先だった。当時もLGBT(性的少数者)の方はいたし、組織内のパワハラ問題もあっただろう。でも「餓死をなくす」の方が世論の納得を得やすかった。食料確保に目処が立てった後は、「所得倍増」「沖縄・奄美・小笠原の日本復帰」「日本列島改造」など分かりやすいスローガンで政策が進めらた。世論の納得があれば政治や行政は問題解決にリソースを投下しやすい。

今、社会が成熟しLGBTやセクハラ・パワハラ、知る権利、発達障害など多種多様な社会問題が台頭してきた。これは政治が優先度の高い社会問題を着実に解決してきたからこその結果だ。国民共通の社会問題がなくなり、解決すべき問題が多様化したことで、どの問題から手を付けるかは「みんなで決める」ことになる。

現在の日本の「みんな」の大部分を占めるのが高齢者層である(2017年の衆議院選挙では39歳以下の投票数は19%に対して60歳以上の投票数は49%)。民主主義は「みんなからお金を集めて、その使いみちをみんなで決める」という仕組みだ。実際は累進課税制度であり、全員が投票に行くわけではないので「お金持ちから多めに集めて、その使いみちを投票に行く人達で決める」ことになる。

「集めたお金を何に使うか」をみんなで決める民主主義の仕組み上、多くの声があがる問題に優先的にお金を使わざるを得ない。過半数を占める60歳以上の人たちは子育ても終わり、自分の老後に関心が向く世代だ。自分たちに使われるであろうお金を断って、自分が生きているかどうかもわからない時代への投資、すなわち教育や子育て支援に使うべきだ、と言える人は残念ながら多くない。

だとすれば、現在の「シルバー民主主義」のシステムが変わらない限り、政治は機能しない。有権者の要望通りに資源配分するだけの政治家は山ほどいる。これからの政治家に求められるのは「社会問題のコーディネート力」だ。不妊治療含めた子育て支援や教育など、60歳以上の投票者には直接関係しない問題の優先順位を上げ、国民共通の社会問題として共有できるよう、政治力を発揮してもらいたい。

(文=田鹿倫基<日南市マーケティング専門官>)
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田鹿倫基
田鹿倫基 Tajika Tomoaki 日南市 マーケティング専門官
国会では桜の話題で盛り上がってる間に、OECDの中で唯一給料が下がり、女性の社会進出は121位に後退、出生数も激減という2019年でした。2020年はオリンピックがありますが、良い年になりますように!

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